インタービューアー(以下、イ):今日は藤沢先生に宇宙物理学のご専門ということでいろいろお話を伺いたいと思います。
よろしくお願いします。
藤沢 健太先生(以下、藤):よろしくお願いします。
きっかけは
イ:さっそくですが、研究に進まれたきっかけを教えてください
藤:子供のころから天文学者になりたかったんです。 天文学をやりたくて大学に入り、その中で何をやるか迷ったのですが、面白そうだなと思ったのが電波天文学だたったんです。 電波天文学っていうのは宇宙からやってくる電波をとらえて天体の観測をするものです。普通の望遠鏡と変わりません。見るのが電波だってことで。
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← オリオン座の大星雲。 この中心で星がまさに誕生している
左:光の望遠鏡での撮影
右:電波望遠鏡で観測した取った信号データを コンピュータ処理して色と明るさで示した電波イメージ
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その中でブラックホールについて研究しようと思ったのです。 ブラックホールってこう・・・エキゾチックで面白そうな感じがするでしょ? ブラックホールは小さい天体ですから調べるには拡大しなければならないんです。 とするとVLBIという観測方法がいい。 VLBIっていうのは、たくさんの非常に離れたところにある望遠鏡で同時観測することによって微細な構造まで観測することを可能にするものなんですよね。
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丁度、1990年は宇宙科学研究所で人工衛星に電波望遠鏡を乗せようという話が始まった時だったんです。 さっきのVLBIっていうのは離れた所の望遠鏡を使う技術ですが、望遠鏡は離れていればいるほどいいんです。 地球上でやればもちろん直径1万キロの地球の範囲から出られない。でも人工衛星に乗せれば、地球の反対側から見れば3万キロも離すことが出来る! そうするとね。3倍細かいとこまで見られるということなんですよ。 これはすごいや!と思ってね その衛星使ってブラックホールの研究するぞ!って思ったのがきっかけでしたね。
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人工衛星「はるか」を加えた VLBIのイメージ
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イ:その電波望遠鏡は今、宇宙にあるんですか?
藤:ええ、もう機能は止まってしまいましたけれど。 でもね、打ち上げられたのは1997年だったんですよ。 だから僕が学生の時にはその望遠鏡はまだ作っている段階だったんですよ。 大学院を修了、それから2年たって打ち上げられて、ようやく研究できるようになった。時間かかりましたね。
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そのかわり、長野県の臼田にある電波望遠鏡を使って研究していました。 口径64mある日本でもっとも大きい電波望遠鏡です。 巨大なものですから、グイーンと動くと圧巻ですよ これを使って研究してました。 ここでの宿泊回数なら今でも私の記録がトップじゃないかと思うくらい、しょっちゅう利用してました。逆にこの経験があったからこそ、山口の仁保の望遠鏡を電波望遠鏡として使えるようにすることができたと思います。
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山口の天文台で
イ:KDDIから国立天文台に無償譲渡された通信アンテナを電波望遠鏡として研究に利用されているのでしたね
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藤:どうやって電波望遠鏡として使えるようにするか。というところから始めたんだけど、これが出来たっていうのは 臼田での仕事経験があったからこそだったと思います。 どうやって動かすか、どうすれば電波が拾えるか・・・順番に、工夫してやっていきました。 観測するための仕掛けは自分で作りました。楽しかったですよ。
天文学者なら大きな望遠鏡を自分思うままに使いたいと思いますでしょ。 おそらく世界中の天文学者のなかでもこんなに大きな望遠鏡を一人で自在に使っていいなんて学者はそうそういないですよ。わたしはものすごくラッキーです。
そうそう、「はやぶさ」探査機と通信していたのがこの臼田のアンテナなんですよ。 これは、そもそも電波望遠鏡っていうよりも、探査機との通信をするためのアンテナなんです。 探査機が通信に使ってない時間帯を電波望遠鏡として研究に使っていたわけですよ。
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山口市の電波望遠鏡
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イ:はやぶさ帰還の時、先生もここで通信を観測していらっしゃったそうですね。 藤:はやぶさが臼田と通信しているものをここで傍受していたんです。
はやぶさが電波に乗せて臼田と交信をしていたものを、山口からもちょっと聞いてみてたわけです。 一時期通信が途絶えるなどのトラブルがあった末の「はやぶさ」の帰還。映画でもやってましたね。 このはやぶさの帰還イベントにちょっとだけ参加してみたって感じです。
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East Asian VLBI Network(東アジアVLBI観測網)
イ:新規プロジェクト始動とうかがいました。どのようなものなのでしょうか?
藤:先ほど触れました「VLBI」。 日本国内にはVLBI観測できる13台の電波望遠鏡があります。それぞれがいろいろな所に属しているわけですが、これらで組織を作って同じ天体を同時観測することで高い解像度を得ようというものです。
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2005年から国内でやってるんですが、非常に良い成果がありました。 今回のプロジェクトは、これを東アジアに広げよう。というものです。 東アジア地域と連携すれば日本国内だけでやるよりもっと良く見える。そういう研究組織を作ろう、というプロジェクトなんです。 私だけでやっているわけではなくいろいろな所でやっているのですが、 山口大学では山口大学でプロジェクトを起こして独自にやろうというわけです。 中国にあるウルムチにある望遠鏡を使えば端から端まで6000kmありますから、 ここまで離れた望遠鏡を使えば天体のとても細かいところまで見えます。 East Asian VLBI Network(東アジアVLBI観測網)といいます。
イ:見え方は格段に違ってきますか。 藤:それはもう!
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我々は星屑で出来ている
藤:端的にいえば、我々は宇宙から来たといえます。 星が生まれるっていうのは大事なことでね 宇宙の始まった百四十億年前には宇宙にガスが満たされた状態で何の物質もなかった。
そのガスから星が出来ると星の中に炭素・酸素・窒素・カルシウム・鉄・ケイ素・マグネシウムなどが作られた。そして星が爆発して宇宙にたくさん物質を散らせた。それがまた星を作り・・・星の誕生・終焉を繰り返すたびに宇宙にこういった物質が増えて広がっていく。
そのなかで46億年前に太陽ができて地球が出来て、そして我々がいる。つまり我々もこのテーブルもペンも全ての物質の元は星の中で作られたものだということ。 我々の体を作っているものはもともとは宇宙空間に漂っていたチリ、まさに星屑。 凄い話でしょう!?
イ:星屑で出来ている私♪ ちょっと嬉しいかも
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藤沢先生のお話宇宙をうかがっていると 自分が宇宙の一部になったような気がしてきます
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藤:爆発・誕生・爆発・誕生の繰り返し これは宇宙における物質の輪廻です。 そして、どうやって爆発し、星間ガスになり、そして星が出来るのか。この大きな時間の流れと動きを研究できると、我々がどこから来たのかっていう深遠な問いに答えるきっかけの一つになるかな。 我々はそういうことを調べているのです。
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大質量星の形成過程が見えた
イ:ニュースで拝見しましたが、この12月に世界的な成果を上げられたそうですね
藤:これは杉山君の研究になるのですが、 星の誕生のときにはメーザという強い電波が出ることが分かっています。ケフェウスAっていう天体に今まさ に星が出来かかっているわけですが、この星の周りにこのメーザーっていう強い電波を出すガスの塊がいくつもあります。星はこの中心。これを線でつなぐと、 ほら、星を取り囲む環になるでしょう。 これは斜めにみてるリングの形かな。次はこれがどう動くかですよね。
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発表された杉山さん
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この研究でもVLBIが威力を発揮しました。 非常に微小な運動を計測するには高い解像度が必要なのですが、これが出来るのは現段階ではVLBIだけだからです。 動きを調べる為には何年も何年も観測を続けます。すると真中に向かう動きと回る動きの重ね合わせになっている。ガスが回りながらじわじわ内側の星に向かって落ちてきて星を作る。その動きが見えてきたのです。
こうなんじゃないかという予測としては昔からあった。でも実際の動きを確認できたのは世界で初めてなんです。
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イ:画期的な成果ですね!
藤:そう、実際に確かめてみないと本当かどうかは分かりませんから。 確かめることが出来たというのは画期的な結果ですよ。やってよかった。
イ:ケフェウスAはどこにあるんですか?
藤:地球から2200光年の所です。 銀河系直径は10万光年ですから銀河系全体からすると地球のすぐそばだね。
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中心が新星、 メーザーが星を囲むリングになっている
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イ:今、見上げている星のほとんどは何千年何万年も前の光だと聞きますね。 するとこの星も?
藤:光と電波は同じ速さで進みますから2200年前の姿ということですね。
イ:今は、もっと星の完成に進んだ状態になっているのでしょうね。
藤:そうですね。 でも星の生成は何十万年という時間の話だから2000年は宇宙の中で見れば一瞬です。
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ガスの動きのイメージ
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今年の天文イベントは?

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藤:2012年は5月21日に金環日食があるね。 東京あたりでは完全な金環、山口でも結構細い三日月みたいにはなるかな 楽しみだなぁ
2009年の時には自分で日食を予報するってのをやってみたんですよ。 日食の予報って天文学者っぽいでしょ、計算して予測を立ててみました。
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2009年研究室で行った観望会
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実はそんなに難しいものではない。計算自体は高校生でも出来るくらいのものだけど、なかなかやり方を紹介したものが無かったので自分で作ってみました。サイトに載せてるから結構あっちこっちで引用されているみたいです。 これの面白いところはね、自分で計算して、自分で確認できるってこと。 そうすると宇宙ってほんとに動いてるんだ、自然界のことが予想出来るんだっていう感動があるよ。
ただね、計算はかなりめんどくさいです(笑)
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天文学は物理のジャンルなんですね
藤:そうですね。そう言っていいと思いますよ。 天文学と宇宙物理学はほぼ同義で使われますね
天文学が目指しているものは、宇宙がどういたものから出来ているか、どういうメカニズムで動いているか、どう今に至ったのか、そういうのを調べることです。 それを調べる道具が「物理の法則」です。物理の知識は必須ですね。
イ:これからこういう研究したい人には「物理勉強しとけよ」ってことですね。
藤:そうですね。それは是非そうしてほしいですね。 物理を勉強して、宇宙のことを勉強すると本当に宇宙が面白くなりますよ。 様々な天体の現象を見て、どうしてそうなっているのか、どうしてそういうことが分かるのかという問いかけをすることが大事です。 知らなくても宇宙に親しむっていうのは、それはそれで良いことです。
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みんなが物理をする必要があるわけじゃない。 でも物理の勉強をして大学に来ると宇宙を研究することが出来るということですね。 物理、知って欲しいなー
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ブラックホールの画像をお持ちでしたら見てみたいです。(インタビュー終了後)

ここにブラックホール(電波図)
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藤:えーと あるといえばあるんですが・・・ ← これ
イ:・・・はぁ?・・・ ← これですか・・・?
藤:ヒトダマみたい?(笑)
イ:えっと・・・星が沢山ある宇宙に、モヤ~と黒いものが広がって、周りのものがそこに吸い込まれるーっっ!っていうイメージの写真は?
藤:うーん。多分・・・この図の奥はそうなってるんでしょうね。でもまだテクノロジーが追いついてないんですよ。
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藤:小さすぎて見えないブラックホール。だからこそVLBIの技術をもっと発展させて細かいところを見られるようになって、「これがそうです」って言える黒い穴が見えるようになるといいなと思います。
イ:何かでドラマチックなブラックホール写真を見たことがあるような気がしたのですが・・・?
藤:それは想像図ですよ ブラックホールの黒い穴を実際に見た人はいないです。
イ:えーーーっ!
では今ブラックホールの写真を見るとすると、これなんですか?(人魂図)
藤:これを見たら、光もガスも吸い込むブラックホールがなぜ光ってるの?って思うでしょう。 これはね、ブラックホールに吸い込まれる前のガスが回転して円盤状になる。このガスの円盤が光るからなんです。
イ:つまりブラックホールは黒いんだけど、たくさんの光に照らされているっていうかんじですか。
藤:そうです。
イ:ブラックホールって明るいですね。黒くない・・・
藤:そう、凄く明るい しかも「電波」という面から見れば、ブラックホールに吸い込まれるどころかこの吸い込まれる寸前のガス円盤から電波が吹き出てきているんだよ。ビカビカ光ってる。 でも詳しいことはまだ分かってないんですよ。
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おまけ
イ:ジャグリングをされるというウワサを耳にしました。 見てみたいです(おねだり)
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藤:どこからそんな・・・
イ:にこにこ (おねだり ♪ おねだり)
藤:・・・・・・・・・・・・しょうがないなー・・・ちょっとだけだよ・・・
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ジャグリング道具
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藤:恥ずかしいから 写真はだめだよ! ダメ!
残念ながら写真はご披露できませんが、優しくリクエストに答えてくださいました。ありがとうございました。
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