数理科学科  廣澤史彦先生

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廣澤 史彦 Fumihiko HIROSAWA

 

山口大学大学院理工学研究科 准教授

学域:自然科学基盤系学域(数理科学分野)

学科:数理科学科


研究室HP:http://ds0n.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~hirosawa/indexj.htm

 

インタービューアー(以下、イ):今回のインタビューは数理科学科准教授の廣澤 史彦先生です。よろしくお願いします。

 

廣澤 史彦先生(以下、廣):よろしくお願いします。

数学の研究

廣:数学が好きな中高生に、なぜ数学が好きかと聞くと、国語や英語と違って数学は明確な答えがあるからだと言います。でも多分本当はそこへたどり着くいろいろな道筋を考えるのが面白いんじゃないかな。
同じ一つの答えに至る求め方はいくつもある。
逆に一見複雑そうに見える物事の本質を単純に表そうとする挑戦。それも数学の一つの目的です。 

廣:例えばこれらの多面体では面・頂点・辺の数はこうなっています。
この中で共通のルールを探してみましょう。さて、分かりますか?

イ:えーっ?
____えっとえっと・・・

廣:頂点の数-辺の数+面の数=2 です。

イ:あ、ほんとだ。

廣:オイラーの多面体定理っていうんですよ。
正多面体はこういう性質を持っていると言える。全く違うものが同じように表せているでしょう?一見異なるものを記述する一つの法則があるということです。これが数学の面白さです。

波動方程式の研究って?

イ:先生はどんな研究をされているんですか?

廣:私達の身の回りにある様々な現象は微分方程式によって記述されると考えられています。
私の研究対象は、その中でも「波動方程式」とよばれる、水面の起伏の変化や空気中を伝わる音、地震波や電磁波などを記述する偏微分方程式です。

まず、余分なファクターを全て排除した、最も簡略化された波の方程式がこれです。

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葛飾北斎「神奈川沖浪裏」

廣:波動方程式は波の動きを表す方程式ですからこの波動方程式を満たしているものは、波の現象を記述する関数であると言えます。これを満たす解は無限にあります。

実際の波の現象には様々な要素が混ざり合っているのですが、全部の要素をいっぺんに考えようとするとしっちゃかめっちゃか収集がつかなくなるので、研究者は基本の方程式に形状の変化、摩擦の有無、密度の変化といった要素の記述を個別に与えて波の動きの解析を行うんです。

その中の困難な要素として「非線形のファクター」があります。

この「非線形の波動方程式」の解がどんなふうになっているかということを研究しています。

イ:「非線形のファクター」・・・ってどういうものですか?

廣:多様な構造と運動を表すもので、例えば、一番基本の波動方程式に伸び縮みする弦という要素を付け加えた非線形の波動方程式を研究しています。
伸び縮みしない弦だと張力は常に一定ですが、ゴム紐を振動させるとゴムが伸び縮みするので弦の長さも張力も変化しますね。これを記述する非線形波動方程式がこのキルヒホフ方程式です。

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廣:非線形の要素を加えると、基本の波動方程式では簡単だった議論が格段に複雑になってくるんです。
具体的な解は書けない、できるかどうかも分からない。もっと基本的なレベルまで議論しなければならない。

イ:・・・既にある方程式なんですよね?

来研中のサンパウロ大学(ブラジル)の
研究者Malcelo Ebertさんと討論中


廣:はい、既に物理的モデルとして提唱されているものです。

イ:・・・方程式が出来てるならそれを解けばいいということですよね?

廣:まず、解の在る無しの議論から。

イ:え?解があるかどうか?

廣:方程式があるということとその解があるということはものすごい隔たりがあるんですよ。数学の世界ではむしろ解が具体的にある場合が珍しい。
物理現象で記述される解は存在しないかもしれないです。

イ:式があっても解は無いかもしれないんですか・・・

廣:沢山の研究者が百年以上も取り組んでいる未解決の問題は多いですよ

廣:キルヒホフ方程式は、そういった未解決の方程式としてはポピュラーなものです。
分からないからいろいろな制約のもとで、多くの研究者が部分的な解を出し続けているんです。
そして、解があるなら、どういう世界で存在するか、どういう条件ならば存在するか、解の挙動は示せるか。例えばだんだん振動がなくなってくるとか激しくなるとかね。
いろいろなレベルの議論があるんですよ。
勿論、目標は広い条件のもとでの解を求めることですが、それがなかなか難しいです。

廣:一般に非線形の波動方程式というものは解が時間大域的に存在することはないんです。フィードバックするものなので自分自身の影響が形を変えて戻ってきて、時間が経ったら爆発してしまう。

イ:爆発!?

廣:ええ。ですがキルヒホフ方程式では、すごく滑らかな初期状態なら、いつまでも解があることが分かっている。
しかし、ものすごく滑らかでない条件に対して時間大域が存在するかっていうのが問題で・・・これは、ずっと解決されてない

イ:だんだんわけがわからなくなってきました(涙) のーみそばくはつしそうです

廣:(笑)私の研究の目標の一つはこれを解決すること
それが僕のやっている研究の主要な柱の一つです。

イ:未解決問題の解明への挑戦ということですね。

津波CG

イ:津波がどれくらいの大きさでいつ到達するかといった予測に使うのが、この波動方程式でしょうか?

廣:津波のシミュレーターで波が押し寄せるCGを見た事がありますか?
ああいうシミュレーションの際もベースにあるものではあります。

イ:ふーん。ああいったCGはこの関数で作られているのか・・・

廣:いや、えっと・・・そうと言ってもいいのですが、この方程式がすぐそれに使えるわけではないですよ。
この方程式は1次元ですが 2次元版の波動方程式をベースにして、もっと複雑な要素を盛り込んだものになります。
それこそ津波なら海底の深さや陸地の形状等、沢山要素があるから、こんなに単純には出来ません。
複雑になると求めることが難しいのでコンピュータに近似した計算をさせて、地震直後の波の様子の1つのパターンを見せているんです。ああいうのを作るのはどちらかというと工学の話になりますね。
で、どうするかというと・・・あーこれを続けると専門から離れてしまう。

イ:あ、違うんですか?

廣:そんなに複雑な微分方程式が用いられているわけではないですから、非線形の波動方程式をやっている人なら専門でなくとも、このCGがどういうシミュレーションでなされているか、どんな要素や難しさがあるかなどのメカニズムはなんとなくわかります。
ですから、研究対象のカテゴリとしては違うが延長線上にはあるというのは嘘ではないでしょう。
ああいうシミュレーションはもっと別の方向の技術的なことが大事になるでしょうね。
ですが、将来、津波などの具体的な研究をしたいと思っている高校生が数理の研究に進めば、そういうことをする素養は培われるでしょう。将来的に津波の数値解析などをするにしても、根本のメカニズムは数学で学んでおかないと表面的にしか分かりません。数学的なことをきちんとするとしっかりとしたベースがあるのから強いです。

数学と物理の違い

イ:先生の研究されているものは具体的に何に利用されるものなんですか?

廣:うーんそれは数学の人には禁句に近いものがあるんだな

イ:そうなんですか?

廣:例えば、数学的に面白い現象を見つけたとして、物理の人はそれに物理的に意味ある結果につながらないと無意味です。でも数学の問題意識としては物理的な意味の有無は関係ない。それが物理と数学の最大の違いなんです。
役に立つかどうかが最初から分かるものではありません。
例えば「虚数」の話。

イ:虚数って2乗して-1になるような、わけの分かんない数ですよね?高校の時に習いましたね。
現実にないものをなぜ勉強するのかがどうも釈然としませんでした。


廣:そう、この現実にはあり得ない数字が方程式の解として考えられた時は、荒唐無稽だとバカにされ見向きもされませんでした。でも何百年もたった今、数学だけでなく工学などあらゆる分野で利用される大事な定義になってます。

イ:虚数って現実にない数字ですよね?それが現実の世界に役立ってるんですか?

廣:虚数で求めた結果というより、虚数を定義することにより広がる世界を道具として使う。
その道具により現実の実の世界を扱うことが出来るんですよ。

イ:なるほど(分かったような分からないような・・・)

廣:好奇心だけでやってるところもありますが、それが、効率的な計算の役に立ち、実際の具体的なところに応用されているんです。
フェルマーの定理って聞いたことがありますか?

イ:TVドラマに数学博士が登場すると、その定理を語るのが定番ですよね。有名な定理なんでしょう?


廣:300年以上も多くの研究者が取り組んだ有名なテーマです。これを研究するために、膨大な外堀を埋める研究があったんです。今実際に応用されているネットワークの暗号理論なんかはその中から出た成果のひとつです。そんな風に将来的には役に立つかもしれないですよ。

いつから数学が好きになったか

工作倶楽部

イ:沢山の面白い作品がありますね。
先生が指導されている数学工作倶楽部の作品でしょうか?


廣:指導じゃなくて一緒になって作るんです。工作倶楽部は 週1回くらいの頻度でやってます。
ガンダムのプラモデルを作ることが好きだったくらいで、作ることは好きなんです。
今は数学で出てくる曲線や曲面なんかはコンピュータで簡単に描けますが、昔はそうはいかなかったから、形を体感できるように模型を作る伝統があるんです。模型を作るには実際に数字を入れて計算しなければならないでしょ?数学に対する理解が深まります。 

イ:お気に入りの作品はどれですか?

廣: いろいろあるんですけど 例えばこれ(写真⇒「円錐と円柱の交差」)。
筒が、丁度入るように計算して、展開図を作ります。適当な穴を開けたのでは、ぴった りには入らないです。
三角関数や多少大学で使う計算も必要になってきます。やってみると計算の意義が分かります。ぴったり収まると気持ちがいいですよ。

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やってみたい方はこちら→

 

廣:これは3次元のハート形を描く関数ですよ。

イ:関数でかわいいハートが書けるんですか! 面白い♪

廣:その解が空間上に描く立体を平面を積み重ねて再現してみました。

この二つのハートの作品は関数は同じもので、 切る断面を変えたものです。(作ってみたい方はこちら→)

yz平面に平行な平面でスライス

xy平面に平行な平面でスライス

hirosawa14.jpg平面のハートなら、この関数で

 

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イ:(←)不思議な形ですね。

廣:穴のあいたリングの周りを紐を2周まわしながら、リングに5回巻きつけて出来る形状で、「(2,5)型トーラス結び目」とよばれるものです。

イ:面白い形ですね。インテリアにも良さそうな素敵なオブジェです。部屋に欲しいな。制作費はどれくらいですか?制作時間は?

廣:ケースが一番高いくらいだから500円くらいかな。
時間は結構かかりますね。

イ:必要なのは根気と計算能力・・・ってことですね。 うーん。

挑戦したい方はこちら→

 

数学の研究

イ:世紀を跨ぐ謎に挑戦!スケールの大きい世界ですよね。この世界に挑戦したいと思う人はどうすればいいですか?

廣:サッカーと一緒で、まっすぐ蹴ったり走ったりという基礎が出来てないとゲームは楽しくない。
それと同じ基礎に当たる部分が数学では分数の計算だったり三角関数だったりするわけです。
まずは計算能力を鍛えることです。走り込んだりボールを蹴る練習をするようにね。
それをクリアすればその先に楽しめるものがある。

イ:どんな学生に数理科に来てほしいですか?

廣:数学が好きな人が来ればいい。それが一番大事。
1,2年で大学の数学の基礎トレーニングが終わり、3年後期からゼミに入り、より深い理解が出来て世界が広がる。そこから数学が面白くなってきます。ようやくゲームが楽しくなるってことですよ。
表面的な計算で満足せず、実際にどういう応用をされているかというところまで深く突き詰めて考えてほしいですね。そして楽しんでほしい。

イ:大学で数学を学ぶ意義は何でしょう?

廣:大学で学ぶ数式がそのまま企業で役立つというものではないでしょう。
大学で数学を勉強する意義は、数学という道具を使っていろいろな問題をロジカルに解決する訓練をするということですね。それは実際のいろいろな現場で役立つものでしょう。

これも面白いなぁ

正十二面体の面の中心点をつなぐと
中に正二十面体が出来ている。

イ:論理的な思考が身に付くということですね。

廣:それともう一つ、数式を見ても拒否反応を示さなくなりますね。
企業などで新しいことを始めるにあたって説明に数式が出てくると、「これは駄目だ!」って挫ける人が多いようですが、数理の学生は日々訓練をしているわけですからね。耐性があります。

イ:耐性…(笑)

 

インタビュー:2014年2月7日(金)10:20-12:00