数理科学科 大関一秀 先生



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大関 一秀 Kazuho OZEKI
山口大学大学院創成科学研究科 准教授
学域:理学系学域(数理科学分野)
学科:数理科学科




インタビュアー(以下、イ):今回のインタビューは数理科学科准教授の大関一秀先生です。よろしくお願いします。

大関一秀先生(以下、大):よろしくお願いします。

イ:大関先生が専門となされている「可換環論」とはどのような学問ですか?

ozeki_3.jpg大:まず、「可換環」とは何かということを簡単に説明すると、「足し算」と「引き算」と「掛け算」が可能なものの集まりのことです。 例えば、整数は足し算、引き算、掛け算が可能ですよね?ですから、整数を集めたものは可換環となります。 他には、多項式も、足し算、引き算、掛け算が可能ですから、多項式を集めたものも可換環です。
このように、整数や多項式を研究の対象とした数学の一分野が「可換環論」です。私たちは、中学や高校の数学の授業で、整数や多項式の性質を学んだと思います。例えば、公約数、公倍数、素数、素因数分解、多項式の因数分解など、これらは可換環の基礎理論を使って、正しいことを証明することが出来ます。

イ:それはどういうことですか?

大:例えば、素因数分解を行うことで6=2×3や100=22×52と表すことが出来ますよね?これに限らず、「すべての数字」が素数の掛け算で表すことが出来ます。そして、数学の理論を使ってそれが正しいということを「証明」することで、なぜ、こうなるのかということを説明することが出来るんです。

イ:当たり前に解いていました。説明できますか?と問われてもできません。

大:私の研究室には中学や高校の教員を志望する学生が所属していますが、このようなことを念頭に置きながらセミナーを行っています。 奥底にある理論を知ったうえで教える。そうすることで、説得力も生まれますからね。例えば、ある回のセミナーでは、「多項式ってなに?そもそも変数って何?」というテーマを扱ったこともあります。 多項式や変数って数学の授業で習って以来、当たり前のように存在しているように思えますが、実はそうではないということに気が付く。そして、そこから議論がスタートします。

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イ:最初に「可換環」と聞いたときは、全く馴染みのないもののように感じましたが、私たちが知らない間に触れていたということですね。

大:はい。私たちの身近にある数学に関わる学問であると言えるんですよ。

イ:さらに、ヒルベルト函数が専門とのことですが、ヒルベルト函数ってどのようなものでしょうか?

大:う~ん。ここで簡単に説明するのは正直中々難しいですね・・・。ほんの少しだけお話しさせて頂きます。
単純に言いますと、可換環の構造を数値化するための道具です。先程、整数や多項式の集まりが可換環になっているという話をしましたが、それ以外にも未知の構造を持つ可換環が沢山存在します。
そんな未知の混沌とした可換環の構造を数値化し、分類するための理論として「ヒルベルト函数」が有効であると考えられています。

イ:小さい頃から数学が好きだったのですか?

大:いいえ。高校までは、数学は苦手でした。とにかく単純計算が嫌で嫌で、ミスもいっぱいしていました。

イ:では、なぜ数学の研究者になろうと思ったのですか?

大:ある時、ガウスやオイラーといった歴代の数学者を紹介した本を読んで、今学校で学んでいる数学とは違って、学問の数学ってこういう世界なんだ。自分もこれを学びたいな。って思ったんです。それを学ぶには、高校までの数学では教えてくれない。大学に行けば学べる。ということを知って、数学科に入ろうと決めたんです。
そして、私が博士後期課程の時にこのヒルベルト函数に出会いました。それ以降、イタリアやベトナムといった様々な国でヒルベルト函数を研究する数学者の方々との出会いがありました。今では毎年夏にイタリアのジェノヴァ大学を研究出張で訪れて、ヒルベルト函数の専門家の先生方や、ジェノヴァ大学に所属している若手研究者や大学院生と研究打合せを行っています。残念ながら今年は、訪問出来そうにありませんが。。。

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イ:ジェノヴァ大学では具体的に何をされるのですか?

大:平日は毎日研究室を訪れて、お互いの意見を交換し合っています。例えば、こんな定理を見つけたんだけど、どうかな?それは既に知られているよ。と言われれば残念だし、新しいし面白そうだね。と言われれば、それは嬉しいですね。机の上にお互いのノートを広げて書きながら、時には黒板を使いながら議論、討論をずっと繰り返し行っています。研究を進めるにあたって、やはり専門の方とこのように直接議論をするのが大事ですね。
週末になると、みんなでハイキングに行くこともあります。カジュアルな感じではありますが、そこでも数学の議論をすることもあります。

ozeki_8.jpgイ:え!?山登りしながら数学の宿題をさせられている感じがしてしまいますが、それが一番の共通の話題であり日常会話だということですね?

大:そうですね。好きなモノについて熱く語り合ったりしませんか?それと同じです。あと、数学に限らずどんな学問でも同じ分野の人たちが集まれば、そこがどんな場所であっても最近の研究結果やトピックの話しになったりすると思います。なかなか楽しいですよ。イタリアの人々は皆とても温かくて、休日にはホームパーティーに招いていただいたりもするんです。ピザもお肉も美味しいですが、パスタのジェノベーゼはフレッシュなバジルの香りがよくて松の実の風味もよく、最高に美味しいですね。そこでも討論しながらみんなでワインを飲むんです。今ではファミリーのような存在です。ozeki_9.jpg
この世界って、じっくり時間をかけて考えていかないと解らないことばかりです。自分でノートを使って証明をつけ、計算をして確かめる。次の理論をつくってまた検証していく。普段の研究では、この作業を基本1人で黙々としていかないといけません。ジェノヴァ大学の先生に会いたい。みんなに会いたい。パスタが食べたい。って思いながら、それをモチベーションの一つとして頑張っています。

イ:楽しい事があると頑張ることが出来ますよね。

ozeki_10.jpg大:それが目的ではないですけど、そうですね。それらの出会いや経験が今の自分を支えてくれていると思っています。どんな学問にも様々な専門分野があり、その専門分野の人との出会いが運命となることがあります。やはり人との繋がりは大事ですね。
大学生やこれから大学生を目指す受験生の方々には、これから訪れる学問との出会い、そして人との出会いを大事にしてもらいたいと思います。

イ:来年はジェノヴァ大学の皆さんに会えると良いですね。本日はありがとうございました。


インタビュー:2020年6月26日