物理・情報科学科  齊藤 遼 先生



saito_1.JPG
齊藤 遼 Ryo SAITO
山口大学大学院創成科学研究科 助教
学域:理学系学域(物理学分野)
学科:物理・情報科学科

研究室HP:http://www.nsakai.sci.yamaguchi-u.ac.jp


インタビュアー(以下、イ):今回のインタビューは物理・情報科学科(物理分野)の齊藤遼先生です。よろしくお願いします。

齊藤遼先生(以下、齊):よろしくお願いします。

どのような研究をされていますか?

saito_2.jpg齊:私の研究分野は「宇宙論」と言われるもので、宇宙そのものが研究の対象です。
「宇宙論」と一口に言ってもいろいろな研究対象があって様々なアプローチで研究している人がいますが、基本的には宇宙がどのように生まれ、進化してきたのか?また、宇宙を支配しているのはどんな物理理論なのか?ということを研究する学問です。

イ:具体的に先生はどんなことをやっているのでしょうか?

齊:なかなか簡潔に説明するのは難しいのですが、まず宇宙が膨張しているという話を聞いたことはありますか?

イ:聞いたことはありますが、イメージが湧かないです。

齊:宇宙が膨張しているというのは、我々が住んでいる空間が時間とともに引き伸ばされていくという意味です。
と言ってもイメージするのは難しいですよね。
我々が住んでいる世界は上下前後左右がある3次元空間ですが、例えばゴム風船の表面の様な前後左右しかない2次元の平面世界に住んでいると想像してみてください。そして、ゴム風船の表面にいくつかの点を書きます。これを銀河と考えてください。

saito_3.jpg
風船が膨らむように、宇宙全体がどんどん大きくなっている。

このゴム風船を膨らませていくと、膜が引き伸ばされていって膜上の点と点は離れて行きますよね。風船の表面は2次元の面ですが、これを3次元にしたものが宇宙膨張だと思ってください。

夜空を眺めて宇宙はずっと変わらない静的なものだというイメージを持っている人も多いかと思います。でも宇宙は常に膨張を続ける動的なものであるというのが、現在の宇宙像なんです。

イ:宇宙はずっと同じ大きさを保っているわけではないんですね?

齊:そうですね。宇宙は動的なものであることが明らかになったのは、そんなに遠い昔のことではなく今から100年ぐらい前の話です。なぜ膨張しているということが分かったのかというと、最初は宇宙とは関係なく進められていた理論的な研究がきっかけでした。

アインシュタインの相対性理論について聞いたことはあるでしょうか?

例えば、止まっている人と動いている人とでは、時間の流れ方やモノの長さが変わるという話です。これを「特殊」相対性理論というのですが、さらに「一般」相対性理論というのがあります。こちらは重力に関する理論で、すごくざっくりというと、重力は時空(時間と空間)の歪みであるという理論です。重力は物質によって発生するものなので、これは物質の周りでは時空が歪む、つまり時間の流れ方が変わったり、空間が伸び縮みするということを意味します。

一般相対性理論は1915~16年に発表されたのですが、宇宙を空間が一様に物質で満たされたものだと思って、一般相対性理論を適用してみたら空間は時間とともに引き伸ばされていくということが発見されました。

saito_4.jpg
Image Credit:T.Pyle/Caletech/MIT/LIGO Lab

この時点ではまだ理論的な可能性でしかなかったのですが、しばらく経った1929年にハッブルという人によって観測的にも宇宙が膨張しているという証拠が見つかります。

ゴム風船の例だと外から見れば膨張しているのは一目瞭然ですが、実際には外の世界なんてありません。
では何を観測したかというと、遠方の銀河の速度を測って、みな我々から遠ざかっていることを発見しました。
ゴム風船を膨らますと銀河同士の距離が広がっていくことが分かると思います。同じ状況を膜上のある一点から眺めると、銀河が自分から遠ざかっていくのが見えるはずです。さらに遠ざかる速さには特徴があって、少し考えてみると、まず自分からの距離が同じなら遠ざかる速さも同じです。また、距離が離れるほど遠ざかる速さ(=距離/時間)も大きくなります。

saito_5.jpg

個々の銀河は光でも数百万年かかるぐらいお互いに離れていますが、それらがみな示し合わせたように同じ法則に従って動いているわけです。この特徴は銀河固有の運動だと思うと非常に不思議ですが、宇宙が膨張している効果だと思うと自然に理解できます。

この宇宙膨張の発見によって、現在につながる宇宙論研究が始まります。

宇宙に始まりがあった

齊:もし宇宙が膨張しているとすると、新たな疑問が生まれてきます。

イ:それは何ですか?

齊:まず、もしも宇宙が膨張しているということを信じるとするならば、逆に過去に遡るにつれて宇宙はどんどん小さくなっていくはずです。だとすると宇宙に始まりがあったはずだ!という考えに至ります。これをビッグバン理論と言います。

そして、宇宙は惑星や太陽系、銀河など多様な構造に満ちていますが、宇宙に始まりがあるとすると、それらはどのようにして宇宙に生まれたのか?ビッグバン理論の観点に立って色んなものがどういう風に始まったのかという疑問が出てきます。
それらを明らかにすることが、宇宙論研究の目的のひとつです。

過去のことなんて分かるのかと思われるかもしれないですが、かなり多くのことが分かっています。
こんな宇宙の年表というものも描かれています。

saito_6.jpg

図:宇宙の年表(ESA and the Planck Collaboration・一部改変)

例えば宇宙誕生後数分で元素が合成されたとか、数億年後には銀河が形成されていたといったことが分かっています。

文部科学省が配布している一家に1枚宇宙図というものもあって、そちらは眺めているだけでも楽しいですよ。おすすめです。

イ:昔のことをどうやって調べるのでしょうか?

 

齊:実は、宇宙からやってくる光を調べることで分かるんです。光の速度が有限だという話をご存知でしょうか?

saito_7.jpg
宇宙図(一家に1枚)

齊:光年という単位がありますが、これは光で1年かかる距離という意味です。つまり、1光年離れた天体から光を受け取った時、その光は1年前に天体から放たれたものだということです。

saito_16.jpg

光の速度は非常に速いので、光が届くまでに時間が掛かることを日常で実感することはないと思いますが、例えば太陽から我々に光が届くまでに8分程度の時間がかかります。つまり、我々は8分前の太陽を見ていることになります。

もう少し身近な例として、雷はピカって光ってから音が遅れて聞こえてきますよね。あれは光の速度に比べて音の速さが非常に遅いためです。我々が聞いている雷の音は、今起こった雷の音ではなくて、(距離)/(音速)だけ前の時間に起こった雷の音を聞いていることになります。遠くで起こった雷ほど稲光に対して音が遅れて聞こえる。つまり「遠く=過去」ということです。

要するに光も一緒で、遠くのものを見れば見るほど、過去の宇宙の姿を見ることができるのです。宇宙論では個々の天体を調べる訳ではありませんが、過去の宇宙からやってくる様々な光を調べることで宇宙の発展について知ることができます。

宇宙最古の光

イ:過去の宇宙の姿を見ることができる光とは具体的にはどんなものですか?

齊:過去の宇宙を調べる方法はいくつかあるんですが、最も遠くからやってくる光が『宇宙マイクロ波背景放射』というものです。現在の宇宙は138億歳と言われているのですが、『宇宙マイクロ波背景放射』は宇宙誕生後38万年頃に放たれた光であると考えられています。

イ:え!それは随分昔のものですね。

齊:はい。太陽系の誕生が宇宙誕生後90億年くらいと言われていますので、それと比べても非常に昔の宇宙から来た光ですね。宇宙に星が誕生するよりもずっと前の宇宙から来た光です。我々が見ることのできる宇宙最古の光であると言われています。

saito_8.jpg38万年頃に放たれた光と言いましたが、その頃の宇宙は現在とは全く違う姿をしていました。温度が高くて原子は原子核と電子が電離したプラズマ状態になっていたため、光は電子に邪魔されて直進できなかったんです。例えるなら、曇り空の様に雲に阻まれて太陽の光が届かないイメージですかね。
それが、膨張と共に宇宙の温度が徐々に下がってきて電離していた電子が原子核に捕獲されて、それまで電子に邪魔されていた光が真っ直ぐに進めるようになります。雲がパッと晴れた様に、宇宙が透明になったんです。これを「宇宙の晴れ上がり」と言います。自由になった光が宇宙を満たし、それから138億年経った現在『宇宙マイクロ波背景放射』として観測されています。
この光を詳しく調べることで、初期の宇宙について様々なことが分かってきます。

イ:その『宇宙マイクロ波背景放射』を見ることができるのですか?

齊:そうですね。マイクロ波というのは電子レンジでも使われているGHzくらいの周波数を持つ光(電磁波)なのですが、それを受信できるアンテナを使って検出されています。1964年にペンジアスとウィルソンという人によって初めて検出され、1990年ごろから衛星を打ち上げて宇宙での観測も行われています。

夜空というと、暗闇の中にまばらに星が光っているというイメージがあると思います。しかし、我々の目では見えないマイクロ波帯あたりで観測してみると、空のあらゆる方向から光がやってくることが知られていて、これが『宇宙マイクロ波背景放射』です。

実際、このやってくる光の周波数ごとの光の強さを調べると、ちょうど熱いものから出てくる光と同じ特徴を持っています。熱した物質から出てくる光を黒体放射と言います。黒体放射の周波数ごとの強さは、出した物質の組成に関係なく、温度だけで決まっていることが知られています。『宇宙マイクロ波背景放射』の周波数ごとの強さを測ってみると、絶対温度2.7K(ケルビン)の黒体放射と非常に似た形をしていました。これが空のあらゆる方向からやってくるということは、宇宙があるとき熱い状態にあったということを示しています。

さらにそれだけではなくて、『宇宙マイクロ波背景放射』の方向ごとの温度を非常に詳しく調べてみると、ちょっと熱いところとかちょっと冷たいところがあります。これが実際に観測された方向ごとの温度です。

saito_9.jpg

図 :宇宙マイクロ波背景放射の温度マップ(ESA and the Planck Collaboration)

齊:赤いところは温度が高くて、青いところは温度が低いことを表しています。違いは2.7Kに対して10万分の1くらいと非常に小さなものです。この非常に小さな温度のばらつきは、初期宇宙の物質分布の“むら”に対応していると考えられています。宇宙論では、この“むら”のことを「ゆらぎ」とも言います。この『宇宙マイクロ波背景放射』に見られる「温度ゆらぎ」は、宇宙のたくさんの情報を含んでいます。

詳しく調べると、宇宙が何でできているのか?ということも分かってきます。

宇宙は何からできている?

齊:我々の体は原子でできていますよね。それと同じように、宇宙を満たしている物質がどういう構成要素でできているのか?ということです。構成要素を調べた結果、非常に驚くべきことが分かりました。現在の宇宙は原子だけではなく、我々が全く知らない未知の物質でできているということが判明したんです。名前だけでも聞いたことがあるでしょうか?「暗黒物質」というものです。

 

イ:はじめて聞きました。「暗黒」と聞くと何だか怖いものを想像してしまいますね。

saito_10.jpg

齊:自分では光らない物質なので、そのように呼ばれています。また、単純に何だか分からない物質という意味もあります。さらに、「暗黒エネルギー」というものも存在していて、これも正体不明のものです。宇宙は我々の知っている原子などの物質が5%で、残りの95%は目に見えない正体不明の「何か」でできているということが分かっています。 

暗黒物質や暗黒エネルギーのような正体不明な「何か」があることは確からしいのですが、ではその正体は何か?というと未だに分かっていません。それを明らかにしたいと思って研究しています。特に暗黒物質や暗黒エネルギーの候補はいろいろと提案されているのですが、それらを実験や観測データを使って、どうやって検証すればよいかを研究しています。

宇宙の構成物の割合

イ:どのようにして、その正体不明のものがあるということが分かるのでしょうか?

 

齊:暗黒物質は光らないので見えないのですが、重力を持っていて物を引きつけます。そういった光らないけれど物を引きつけるような物質があるという観測的な証拠がいくつか見つかっています。

例えば、有名なものとしては、銀河の回転速度の問題があります。物をぐるぐると回し続けるためには、遠心力で飛んでいかないように内側に引っ張っておく必要があります。地球が公転軌道にとどまれるのは、中心にある太陽が地球を重力で内側に引きつけているからです。これを銀河に当てはめてみると、もし銀河が星やガスなどの光る物質のみで構成されているとすると、光っている部分から遠ざかるにつれて、回転速度は下がっていくはずです。銀河の周縁部では、内側に引きつける重力が弱くなっているはずだからです。しかし、実際に観測してみると、回転速度は下がらずほぼ一定でした。

これは、銀河には光らない物を引きつける物質、つまり暗黒物質があることを示唆しています。

saito_11.jpg

Image credit: Mario De Leo / CC BY-SA 4.0(一部改変)

saito_9.jpg また、暗黒物質は宇宙の構造の進化にも深く関わっていると考えられています。『宇宙マイクロ波背景放射』の「温度ゆらぎ」の観測から、初期の宇宙はもっと一様でのっぺりとしたものだったことが分かっています。
『宇宙マイクロ波背景放射』の方向ごとの「温度ゆらぎ」は、初期宇宙の物質分布にあった「密度ゆらぎ」を反映したものです。
「温度ゆらぎ」は10万分の1程度と非常に小さなものでしたが、それに対応して宇宙初期の物質分布にも非常に小さな「密度ゆらぎ」しかありませんでした。
この小さな「密度ゆらぎ」が重力で周囲の物質を引きつけて成長し、宇宙のさまざまな構造が形成されたと考えられています。
10万分の1だけ温度に「ばらつき」がある

saito_17.JPGその様子がコンピュータ上でシミューレションもされていて、小さな「密度ゆらぎ」が成長して塊をつくっていく様子を映像で見ることができますhttps://www.cfca.nao.ac.jp/pr/20210910

齊:この「密度ゆらぎ」の成長を理論的に調べてみると、暗黒物質の働きがなければ、宇宙初期の小さな「密度ゆらぎ」が銀河を形成するほどまでに成長することはなかったということが分かります。

つまり、暗黒物質がなければ、我々も存在しなかったと言えます。

 

イ:暗黒物質は私たちに大きく関係しているんですね。

宇宙を構成する成分の7割を占めている「暗黒エネルギー」とは?

齊:暗黒エネルギーはたくさんの証拠があるわけではないのですが、現在の宇宙の「膨張率」の観測から、その存在が示唆されています。最初の方に少しお話ししましたが、一般相対性理論によれば時空の歪みと物質がつくる重力には深い関わりがあります。宇宙がどう膨張するかは宇宙がどういう物質でできているかで変わってきます。きちんとお話しするのは難しいのですが・・・、重力は引力なので、宇宙の膨張を減速させる働きがあります。ですが、実際の観測では宇宙の膨張は加速しているということが分かったんです。

イ:膨張の速度が遅くなるどころか、どんどんスピードが速くなっているということですか?saito_12.jpg

 

齊:そうですね。イメージで言うと、ボールを上に放り投げた時、地球の重力によって減速されて戻ってきますよね。しかし、宇宙膨張の速度が現在加速しているというのは、放り投げたボールはどんどんと速度を上げながら空に登っていくようなものです。不思議ですよね。

この不思議な現象は、現在の我々の知っている物理理論では理解することができないんです。考えられる一つとして、例えば宇宙が斥力を発生させるような物質で満たされているのであれば説明できます。宇宙の加速膨張を引き起こす、この仮想的な物質が「暗黒エネルギー」です。

斥力を発生させるということ以外はよく分からない物質で、「暗黒」は正体不明という意味です。「エネルギー」と言っているのは、宇宙論では「物質」は日常で使うより限定された意味で使われるので、それと区別するためだと思ってください。

saito_13.jpgまた、別のアプローチとして、宇宙では重力法則が地球上とは異なっているとする説もあります。これは修正重力理論と呼ばれていて、私はこの修正重力理論をどうやって検証すればよいかという研究を最近はしています。

重力法則を修正すると言っても好き勝手にやっていいわけではなくて、さまざまな理論的・観測的な制約があります。その制約を満たしつつ、加速膨張を説明できる修正重力理論があるのか調べています。また、重力は万有引力と言われるくらいなので、さまざまな現象に関わっています。そうした重力が関わる現象を詳しく調べることで、重力法則が我々の知っているものと違う兆候がないかを探しています。

もしかしたら、身近に加速膨張の起源に迫るヒントが隠されているなんてこともあるかもしれませんね。

インフレーション

齊:もうひとつ、私がやっている研究テーマとして、インフレーションというものがあります。
インフレーションとは、宇宙のはじめの方に起きたと考えられている加速膨張のことです。

イ:宇宙の始まりの時点の話ですか?

 

齊:はい。宇宙が始まった直後ぐらいの話です。
急激な膨張が起きて、とても小さかった宇宙が一瞬のうちに数十桁も大きくなったと考えられています。その加速膨張がインフレーションです。
まだ起こったという確かな証拠はないのですが、インフレーションが起こったとすると現在の宇宙に見られるいくつかの不自然な点を説明することできます。
それだけではなくて、インフレーションが起こると、先ほどのお話で出てきた、構造の起源である宇宙初期の「密度ゆらぎ」が自然に生成されます。これもきちんと説明しようとすると難しいのですが、インフレーションのような急激な膨張が起こると、原子のサイズより遥かに小さいミクロなスケールがマクロなスケールまで引き延ばされます。
saito_14.jpg
宇宙の極初期に加速度的に急膨張(仮説)

saito_18.jpg ミクロなスケールは量子力学で記述されていて、不確定性原理で密度が揺らいでいます。この揺らぎがマクロなスケールに引き延ばされて、構造の起源になる「密度ゆらぎ」になったというシナリオです。なんとも信じがたい話ですが、宇宙マイクロ波背景放射の「温度ゆらぎ」に見られるいくつかの特徴をインフレーションは自然に説明することができて、多くの研究者がインフレーションを支持しています。
ただ、確かに起こったとは言えませんし、どうやって起こったかについてもまだ分からないことが多いんです。

光で見ることのできない晴れ上がりよりずっと以前の宇宙のことで、なかなか調べるのは難しいのですが、重要な手がかりになると考えられているのが「原始重力波」です。

イ:原始重力波?初めて聞きました。それは一体何ですか?

齊:重力波というのは最近(2016年)はじめて検出されたとニュースになったのでご存知かもしれませんが、空間の歪みが波の形で伝わる現象です。インフレーションは先ほどの「密度揺らぎ」と同様の原理で、重力波も生み出すことが予想されます。これが「原始重力波」です。重力波は光(電磁波)と違って、晴れ上がり以前の宇宙でもプラズマに散乱されずに進みます。そのため、初期宇宙の情報がほぼそのまま我々に届くので、もし原始重力波が検出されれば、インフレーションが起こった大きな証拠になりますし、その詳細を調べるうえでも重要な情報源になるはずです。 saito_15.jpg
原始重力波が検出されれば、インフレーションの頃の
宇宙の情報を知る手掛かりになる!

まだ見つかっていませんが、計画中のものも含めて様々な観測プロジェクトが進められています。私自身は、原始重力波といった「ゆらぎ」の発展を調べる方法の開発など、観測結果から初期宇宙の情報を引き出すために必要になる理論的道具立てをする研究をしています。

宇宙は「ビックバン」で誕生したのではない?

齊:ビッグバンと言ったとき、文字通りには宇宙の本当のはじまりのことを指すと思います。ただ、はっきりとした定義があるのか私にはちょっと分からないのですが、研究者が「ビッグバン理論」と言う時には、そこまでのことはおそらく言っていません。遡ると宇宙は高温高密度の状態だったという意味で使っていると思います。初期宇宙がそういった状態であったということは、宇宙マイクロ波背景放射の観測によって確かめられています。

イ:熱い宇宙から始まったということ自体は確定である。ということですね。

齊:はい、現在ではほとんどの研究者がそう考えています。その熱い宇宙の前の話がインフレーションです。

今後の宇宙は?

イ:なんだかものすごくスケールの大きい世界で、驚きました。広がり続ける宇宙も、時間の遡り方も想像できないというか・・・。

齊:そうですね。自分で研究していてもなかなか想像もできてなかったりします。

イ:宇宙はどんどん広がり続けますか?そろそろ止まりそうだって話はないのでしょうか?

saito_19.JPG齊:それは分からないです。

宇宙が将来どのように進化していくかは、現在の加速膨張がどうやって起こっているか、つまり暗黒エネルギーの正体が何かに依ります。
そこはまだ分かっていないので正確なことは言えないのですが、いろいろな提案はあって、宇宙定数というものが標準的によく考えられます。宇宙定数が物理的にどういうものかはまだきちんとは分かっていないのですが、膨張しても薄まらないという性質があります。
もし暗黒エネルギーがこの宇宙定数のように薄まらないようなものだとすると、宇宙はこのままずっと加速しながら膨張し続けていくはずです。 

イ:宇宙が潰れて無くならない事を切に願います。

何を使って研究をしているのですか?

イ:宇宙は過去の話なので行って確かめるってことはさすがにできないわけですよね。実際にものを調べるわけではないということは、全て理論と計算でそれが成功しているか?合っているかどうかを確認するという作業をされているということですか?

 

saito_20.JPG齊:理論計算を観測・実験と比較するところは、他の物理分野と変わりません。ただ、宇宙の研究に特有な点として、他の分野だと理論を検証するのに理想的な条件を整えて実験したりできるのですが、宇宙の研究ではそれはできません。観測を行う、見るのが基本です。考古学とか歴史を研究する分野はみなそうだと思うのですが、これを確かめたい!と思っても、それに必要なデータが必ずしも十分に手に入るとは限りません。また、手に入った観測データにも様々な信号が混ざっていますし、そもそも何を見れば理論の検証ができるかも自明ではありません。観測データと理論の欲しい情報との間にはギャップがあります。その観測と理論のギャップを橋渡しするような研究を私はしていますね。

 

イ:では先生の研究に必要な道具とは?

齊:特別な道具は必要ないです。基本的には紙と鉛筆があればできることですが、人間のできる計算量とかにも限界があるのでパソコン等を使うことはあります。 

子供の頃から宇宙に興味があった?

齊:宇宙が入り口というよりも物理が好きで、この世界に入りました。

もともと理科や自然は好きだったのですが、中学生の終わりぐらいに、物理学者のハイゼンベルクという人の伝記のような本をたまたま読んだことが物理の世界に興味を持って自分から調べ始めるきっかけだったと思います。今から100年くらい前の量子力学創世記の話だったのですが、そこに出てくる物理学者がみな魅力的に感じたんです。立場関係なく、意見をぶつけ合いながら新しいものを発見していく姿がとても魅力的で、自分もやってみたいなと思いました。それから図書館に行って物理関係の本を色々読んだりして、勉強を始めました。それが中学の終わり頃から高校までの間です。でも、その時はまだ別に研究者になりたいというか、なれるとは思ってなくて、ただ面白くて勉強を続けていました。ひとまずしっかり勉強したいなと思って、物理ができる大学へ行きました。

イ:では、宇宙を専門とした勉強をやり始めたのはいつ頃ですか?

saito_21.JPG齊:それは、大学院に入る時ぐらいです。理論が好きだというのはあったのですが、自分でただ興味をもって勉強していた頃はどういう分野があるかも知りませんでしたし、細かい分野などは気にしていませんでした。研究者になったら細かい分野を研究するっていう認識もなく、広く興味をもって勉強していました。

でも、大学院に入るとなると、研究室を選ばなければならなくて、そうすると興味を絞らなければならない。どうしようかな?と思っていた時に研究室紹介があって、その時に先生が話していた宇宙の話が面白くて宇宙を選んだのが始まりですね。その時の話がこの『宇宙マイクロ波背景放射』の話だったんです。

イ:その時に『宇宙マイクロ波背景放射』に出会ったのですね。

齊:はい、そうですね。その時はまだ私も、昔のことが本当に分かるのか?と思っていたんです。確認の仕様がないんじゃないのかって。でも、話を聞いてみると、確かに難しいのですが色々なことが分かってきていますし、まだまだ分かっていないことがたくさんある。面白い分野だなと思ってやりたいと思いました。

イ:昔から宇宙が好きで宇宙に行ってみたいって思っていたのかと思いました。

齊:いや、全然そんなことはないです。星の名前とかも知らないですし。宇宙に行ってみたいという気持ちは人並みにはあります。そこは普通の人と変わらないです。

イ:今日は不思議な宇宙の話が聞けて、とても面白かったです。もっとたくさんの人が「宇宙」に興味を持っていただけたら嬉しいですね。

齊:そうですね。宇宙にはまだまだ分からない事がいっぱいあります。もしこのインタビューを読んで興味を持ってくれた人がいたら、自分でどんどん調べてみてくれたら嬉しいですね。

 

イ:長時間のインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。

インタビュー日:2021年7月13日