電磁宇宙物理学研究室
電磁活動研究部門(理論)
Astrophysical-Jet Production Laboratory
鏑木 修

ようこそ ブラックホールとは ブラックホール・エンジンとは
大規模磁場の役割は? 目下の対象は? これまでにわかったこと
今後の課題 最近の主な学術論文 解説書・解説記事
理学部本館201室、kaburaki @ sci.yamaguchi-u.ac.jp

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◆ 宇宙電磁気学理論部門へようこそ
  ここは銀河中心核ブラックホール・エンジンの理論工房です。つまり、エンジンの理論的モデルを組み立て、その働きを現実のエンジンの観測結果と比較して、うまくいかないところがあれば、分解して新たな方針で組み立て直すといった作業をやっています。現在、中心核エンジンから放出される相対論的プラズマ流(宇宙ジェット)の形成をうまく説明できるような中心核モデルの構築に主力を注いでいるので、「宇宙ジェット製作の(理論的)実験室」(Astrophysical-Jet Production Laboratory, or ApJPL)と呼んでください。


◆  ブラックホールとは
  どんな形態の物質でも、もしそれらを極端に狭い空間領域に圧縮することができれば、それらは自己重力でつぶれて特異点(その理論での記述が破綻するところ)を形成します。この特異点が「事象の地平面」で覆われている状態をブラックホールといいます。事象の地平面は、便宜的にブラックホールの「表面」と呼ばれることもありますが、そこに何か「もの」があるわけではありません。あくまでも、強い重力場の存在によってゆがんだ時空の状態を表現しているに過ぎません。事象の地平面の外から内へは物質や光が落下してゆけますが、逆に内から外へは、(量子効果を無視すれば)光と言えども出てくることはできません。
  よく発達した典型的な銀河の中心部には、太陽質量の百万倍から十億倍を超える巨大質量ブラックホールが存在すると言われています。我々はこの巨大質量ブラックホールを対象にしていますが、それぞれの銀河の中にはそれとは別に、星の進化の最終段階で作られた太陽質量の数倍から数十倍程度のブラックホールも多数存在します。そして両者は、規模は大きく違うものの、質的にはよく似た現象を引き起こすことも知られています。


◆ ブラックホール・エンジンとは
  ブラックホールの周囲にあるガスやプラズマは、その重力に引かれてどんどん落下してしまうのでしょうか。実際には、たいていガスやプラズマは角運動量を持っているので、回転による遠心力が働いて、トーラス(円環)として周囲に留まったり、円盤構造(降着円盤)を保ってゆっくりと中心へ落下していったりします。このときまた、円盤の表面からは高温希薄な物質流(「風」または「降着円盤風」と呼ばれる)が発生したり、円盤内縁部からは相対論的速度を持った細く絞られた「ジェット」が放出されたりすることが、観測的に知られています。従って、中心のブラックホール、トーラス、降着円盤、風、ジェット等がエンジンの主要な構成要素です。このエンジンでは、落下物質が遠方で持っていた重力エネルギーが、円盤やジェットから放射される輻射エネルギー(電波、光、X線等)やジェットに伴う運動エネルギーや電磁エネルギーの流れに変換されます。

(左)電波銀河NGC4261の全体像
可視光線(白い部分)と電波(黄色〜赤い部分)でそれぞれ撮影した写真から合成した画像です。可視光線で見える白い部分は恒星の集団=銀河で、その中心から上下方向に電波を放射するジェットが噴出しています。
(右)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した中心部
銀河の中心部の拡大画像(可視光線の写真)です。中央の黒い部分がガスと塵の円盤です。その中心で光っている小さな部分が銀河の中心核で、中心には巨大質量ブラックホールがあります。
http://hubblesite.org/newscenter/archive/1992/27/
Credit: Walter Jaffe/Leiden Observatory, Holland Ford/JHU/STScI, and NASA

◆ 大規模磁場の役割は?
  銀河には銀河磁場と呼ばれる、大きなスケールにわたってほぼ方向のそろった磁場が存在します。このような磁場は、たとえ弱くても銀河中心部にも存在すると考えるのが自然です。実際に、銀河系(我々の銀河)の中心部ではそれが観測的にも確認されています。プラズマと磁場は強く結合するので、ブラックホールに向かう降着流は磁場を強める働きがあります。従って、銀河中心核にはいつでも、流れに影響を与えるほど強い磁場があることになります。
  この研究室(ApJPL)のモデルの大きな特徴は、このような大局磁場の存在を積極的に考慮に入れて、降着流と磁場の構造を矛盾無く決めている点にあります。むしろ、大局磁場の存在こそがブラックホール・エンジンの構造と特性を決めていて、しかもジェットの形成にも必要不可欠であることが明らかにされつつあります。


大局磁場の役割を示した図
中央の黒い点がブラックホール、左右の灰色の部分が降着円盤です。降着円盤を真っ二つにして横から見ていると考えてください。
大局磁場は降着円盤を貫いて上下に伸び、一方で円盤に引きずられて曲がっています。ブラックホールの上下にジェットが伸びています。


◆ 目下の対象は?
  銀河中心核のうち、そこから放出される輻射(電波からX線、ガンマ線にわたる電磁波全般)エネルギーの非常に大きいものは、活動的銀河中心核(active galactic nuclei, or AGN)と呼ばれて、特に注目されてきました。しかし、大多数の銀河中心核はスペクトルこそ AGN に似てはいますが、エネルギー放出率では何桁も小さく、暗いものです。そこで、これらを暗い銀河中心核(dim galactic nuclei, or DGN)と呼ぶことにします。目下のところ、我々の銀河系中心核を含めて、近傍にも多数存在する DGN のブラックホール・エンジンに焦点を絞っています。


◆ これまでにわかったこと
  AGN と DGN の違いが生じる主たる原因は、ブラックホールへの物質の降込み量にあります。これが極端に小さい DGN では、高温・希薄で輻射効率の悪い降着流が実現します。ここを大局磁場が貫いていると、降着流の回転運動でひねられた磁力線が降着円盤の上下から磁気圧をおよぼして、降着プラズマを赤道面付近の幾何学的に非常に薄い円盤内に閉じ込める働きをします。詳しい解析の結果、中心核エンジンの実態は、巨大な重力ポテンシャルの落差を利用した、プラズマによる円盤状の直流型水力発電機である事がわかりました。また、円盤の表面からの「風」については、輻射損失が無視できる限り、その原因は円盤内で開放された熱エネルギーの再分配にあることを論理的に示すことができました。
  このような円盤からの輻射量やスペクトルを理論的に計算して、銀河系やアンドロメダ銀河の中心核をはじめとするDGN からの輻射の観測データと比較しました。その結果、この円盤モデルは基本的にはうまく観測を再現できること、物質の降込み量は実際に非常に小さいこと、円盤は非常に広範囲に広がっていて周囲の高温ガスに直接つながっているらしいこと等がわかりました。また、ジェットの構造についても解析が進んでいます。


我々の銀河系中心核のスペクトル(学生の修士論文より)
白丸とひしゃげた6角型が観測データを、実線が理論的に予測されたスペクトルを表します。
また点線および破線は、それぞれ、降着円盤とジェットからの寄与を分けて示したものです。


◆ 今後の課題
今後の大きな課題は、降着円盤の内縁まで落下してきた流れのうち、ジェットとして放出される部分と最終的にブラックホールに落下してゆく部分を振り分けるメカニズムを明らかにすることです。また、ブラックホールの自転エネルギーがジェット形成にどの程度かかわってくるのかも、興味深い問題です。


◆ 最近の主な学術論文
・ "Viscosity-Driven Winds from Magnetized Accretion Disks"
  by D. Maruta & O. Kaburaki, Astrophys. J. 593, 85-95, (2003).
・ "Effects of Winds on Radiation Spectra from Magnetied Accretion Discs"
  by N. Yamazaki, O. Kaburaki & M. Kino, Mon. Mot. R. Astron. Soc. 337, 1357-1367 (2002).
・ "Effects of Finite Resistivity on Magnetorotational Instabilities in a Realistic Accretion Flow"
  by O. Kaburaki, N. Yamazaki & Y. Okuyama, New Astron. 7, 283-292 (2002).
・ "Criterion for Generation of Winds from Magnetized Accretion Disks"
  by O. Kaburaki, Astrophys. J. 563, 505-511 (2001).
・ "Radiation Spectra from Advection-Dominated Accretion Flows in a Global Magnetic Field"
  by M. Kino, O. Kaburaki & N. Yamazaki, Astrophys. J. 536, 788-797 (2000).
・ "Analytic Model for Advection-Dominated Accretion Flows in a Global Magnetic Field"
  by O. Kaburaki, Astrophy. J. 532, 210-218 (2000).


◆ 解説書・解説記事
・ 「ブラックホール最前線」 岡本功、鏑木修著、改訂版銀河大紀行 (ニュートン別冊)、42頁
  ニュートン・プレス、 2003年。
・ 「宇宙の黒幕 − ブラックホールの素顔」 岡本功、鏑木修著、岩波書店、1992年。