銀河中心のブラックホール発電

「銀河中心のブラックホール発電」

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[概要]

最近の観測によって、我々の住む天の川銀河をはじめ一人前の銀河はすべて、その中心にブラックホールを持っていることがわかってきました。周囲のガスは、その周りを回転しながらゆっくりと落下してゆき、降着円盤を形成します。しかし物質のすべてがブラックホールに飲み込まれるわけではなく、その一部はジェットと呼ばれる超高速流として遠方まで放出されます。この研究では、銀河の持つ磁場の役割を重視し、磁場中の降着円盤を巨大な直流発電機としてとらえます。するとジェットは、それによって駆動されるリニアーモーターであることがわかります。この考えは、種々の銀河中心活動現象を考える上で、自然で発展性のあるモデルを提供するようです。

 

I. 研究の背景・目的

我々の太陽系は天の川銀河に属しています。天の川銀河はすぐ近くのアンドロメダ銀河と同様に、渦巻き状の腕を持った渦状銀河です。宇宙にはこのほかに、腕のような構造を持たない楕円銀河も存在します。最近の研究により、これらの典型的な銀河の中心部には太陽の百万倍から十億倍もの質量を持った超巨大ブラックホール(質量が巨大)が存在することがわかってきました。以前から、銀河のうちのごく少数はその中心部が異常に活発で、電磁放射の広い周波数域にわたって大量のエネルギーを放出していることが知られており、それらは活動銀河中心核(AGN)と呼ばれています。その中でも電波銀河と呼ばれるタイプのものでは、ジェットと呼ばれる細く絞られた高速プラズマ流の対が、しばしば銀河自身の規模を超えるスケールで観測されます(図1参照)。すでに AGN のエネルギー源はブラックホールであろうと予想されていましたが、とくに目立った活動性を示さない通常の銀河までもみなブラックホールを持っていることは予想外の発見でした。さらに、近くにある通常銀河の中心部からの弱い電磁放射を調べてみると、広い周波数域に広がっていてほぼ AGN とよく似たスペクトル構造を持っていること、また弱いながらジェット状の構造が見られる場合もあることがわかりました。つまり、AGN とその他の通常銀河の違いは、その中心部の構造が質的に全く異なるからというよりは、ブラックホールに供給されるガスの量の多少というような量的な違いが原因であるということになります。
ところで、遠方からブラックホールに向かって落下してゆく物質(ガス)は、発電所のダムに蓄えられた水のように落差に応じて重力エネルギーを開放し、それを電力のような別のタイプのエネルギーに変換する能力を持っています。銀河中心部のガスは一般に重力中心をきっちりと狙って入ってくるわけではないので、重力の井戸の中で回転運動をすることになります。このとき隣同士に摩擦力が働けば、運動エネルギーの一部を熱に変換しつつ、徐々に中心部へ落ちて行きます。このため高温ガスは回転面内で円盤状に広がった構造になるため、降着円盤と呼ばれます。いわば宇宙の巨大なはずみ車です。本研究では特に、この電離ガスのはずみ車が現実には宇宙の磁場の中で回転していることを重視して、むしろそれを直流発電機とみなします。この発電機モデルに基づいて、まずは通常銀河の中心核と、スペクトル的にそれときわめて類似した構造を示す電波銀河の中心核の性質を統一的に理解しようというのが本研究の目的です。

 

II. 主な成果

降着円盤という良導体が磁場の中で回転するために生じる起電力は円盤内に直流電流を駆動し(図2参照)、その電流のジュール発熱で円盤は加熱されます。電流は降着円盤の外縁から繭(マユ)状構造の鞘(図3参照)を経て極軸(中心軸)付近に達し、帰還電流として円盤内縁部に戻ってきます。極軸付近に集中した電流に働く磁気力は、この部分にある電離ガスを外向きに加速すると共に細く絞り込むように作用します(図2参照)。これがジェットの生成機構です。つまり、ジェットとは降着円盤発電機によって駆動されるリニアーモーターに相当するわけです。このようにして、発電機モデルは降着円盤内縁部からのジェットの発生を、大局的な電流の循環という形で自然に説明できました。また、モデルに基づいて円盤からの電磁放射スペクトを計算し、天の川銀河や電波銀河の中心核に対する観測結果を、満足のいく精度で再現することができました(図4参照)。通常銀河と電波銀河のスペクトルの類似性は、これらのタイプの中心核ではブラックホールへの物質供給量(質量降着率)がそれぞれの基準限界値に比べてはるかに小さいといことでうまく説明できます。他にも、降着円盤外縁の大きさを理論的に予言し観測値と良い一致を得たこと、磁場の存在が物質の降着率を抑制する効果を定量的にを示せたことがあります。この降着率の抑制現象は、観測的には知られていたもののその理由が明らかではなかったことです。

 

III. 今後の展開

これまでの研究で、質量降着率が基準限界値に比べて非常に小さい場合に関しては、磁場中の降着円盤の構造や性質についてかなり良く理解できました。電波銀河の観測が示唆するように、実はこのケースは雄大なジェットが発達しやすい環境にあるようです。したがって、次の課題はジェットの形成と構造についての定量的な議論を進め、特に降着円盤内縁部からの立ち上がりの過程を明らかにすると共に、降着率を含めて他にもどんな物理要素がジェットの強弱を左右するのかについて解き明かしてゆくことです。すでに、ジェットの根元から十分離れた領域での構造については解決した部分もありますが、重要なのはやはり根元の部分です。また中心部には、ジェットにならずにそのままブラックホールまで落下してゆくプラズマ流もあるわけです。この部分の流れの構造とそこからの電磁放射についても解明する必要があります。この領域はブラックホールのきわめて近傍にあるため、これまでは無視できた一般相対論的効果を直接考慮に入れる必要もあります。これにより、ブラックホールの自転の影響なども議論できるわけです。さらにはまた、質量降着率がずっと大きい場合の降着円盤の構造や性質と他のいろいろなタイプの AGN との関連など、多くの課題が残されています。

 

IV. 学術論文など

1."Analytic Model of MHD Hollow-Cone Jets"
by O. Kaburaki, Prog. Theor. Phys. Suppl. 155, 349-350, (2004).
2."Viscosity-Driven Winds from Magnetized Accretion Disks"
by D. Maruta & O. Kaburaki, Astrophys. J. 593, 85-95, (2003).
3."Effects of Winds on Radiation Spectra from Magnetized Accretion Discs"
by N. Yamazaki, O. Kaburaki & M. Kino, Mon. Mot. R. Astron. Soc. 337, 1357-1367, (2002).
4.Effects of Finite Resistivity on Magnetorotational Instabilities in a Realistic Accretion Flow"
by O. Kaburaki, N. Yamazaki & Y. Okuyama, New Astron. 7, 283-292, (2002).
5. "Criterion for Generation of Winds from Magnetized Accretion Disks"
by O. Kaburaki, Astrophys. J. 563, 505-511, (2001).
6. "Radiation Spectra from Advection-Dominated Accretion Flows in a Global Magnetic Field"
by M. Kino, O. Kaburaki & N. Yamazaki, Astrophys. J. 536, 788-797, (2000).
7. "Analytic Model for Advection-Dominated Accretion Flows in a Global Magnetic Field"
by O. Kaburaki, Astrophys. J. 532, 210-218, (2000).

 

研究者

鏑木 修 (かぶらき おさむ)
Osamu KABURAKI
山口大学理学部自然情報科学科物理学講座
教授
[連絡先]
e-mail: kaburaki@sci.yamagichi-u.ac.jp

 



http://hubblesite.org/newscenter/archive/1992/27/
Credit: Walter Jaffe/Leiden Observatory, Holland Ford/JHU/STScI, and NASA
(左)銀河NGC4261の全体像 可視光線(白い部分)と電波(黄色~赤い部分)でそれぞれ撮影した写真から合成した画像です。可視光線で見える白い部分は恒星の集団=銀河で、その中心から上下方向に電波を放射するジェットが噴出しています。
(右)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した中心部 銀河の中心部の拡大画像(可視光線の写真)です。中心部に黒い部分があります。これは冷たいガスの円盤です。その中心で光っている小さな部分に高温の降着円盤とブラックホールがあります。

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図2 銀河中心部の断面図 中央の小さな黒丸がブラックホール、左右の灰色の部分が降着円盤、中心軸近くの中空構造がジェットを表しています。円盤を貫く矢印付きの細い線は磁力線です。これらは円盤の回転のためにねじられ、内向きの流れのために中心方向にへこんでいます。ねじれ成分は環状の矢印で示されていますが、実際の磁力線はそれらの合成で、螺旋状になります。電流の向きは、黒の太い矢印で示されています。

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図3 円盤・ジェットがつくる繭(マユ)状構造 降着円盤内で回転しながら徐々に中心部に向かって落下してきたガスは、円盤内縁でその一部がジェットとして上下方向に立ち上がります。ジェットは遠方まで飛んだ後、希薄な銀河間ガスと衝突して反転します。ジェットのほかに、降着円盤表面からはウインド(風)と呼ばれる高温希薄なガス流も生じます。これらの高温ガスとねじれた磁力線は、外界とは混合せずに、薄い境界層内に囲まれた繭状構造を形成すると考えられます。降着物質は、円盤外縁部(図中の太い矢印)からだけ入ってきます。

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図4 天の川銀河中心核のスペクトル(奥山拓也君の修士論文より) 白丸とひしゃげた6角型が観測データを、実線が理論的に予測されたスペクトルを表します。また点線および破線は、それぞれ、降着円盤とジェットからの寄与を分けて示したものです。

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