超音波で血管内を観る

超音波で血管内を観る
─血管内超音波診断IVUS─


1.はじめに

心臓の筋肉に酸素や栄養を送る大きな血管を冠動脈と言います.この冠動脈の内面にプラークと呼ばれる異常な組織ができ,そのプラークの破綻により血管が詰まり,心筋の一部が死んでしまうことを心筋梗塞と言います.破綻し易い不安定プラークか,そうでない安定プラークかを判断するためにはプラークの組織性状(プラークがどのような組織で構成されているか)を知る必要があります.そのために,現在では図1に示すカテーテル(細い管)と呼ばれるものを血管内に挿入して診断しています.カテーテルは図2に示すように足の付け根や手首の血管から心臓の冠動脈の患部まで挿入されます.

 

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図1 カテーテル

 

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図2 カテーテルの患部への挿入


2.超音波探触子付カテーテル

カテーテルの先端には,図3に示すように超音波探触子の付けられたプローブがあり,そこから超音波が発射されます.発射された超音波は血管内壁に堆積したプラークの各組織から反射され,その反射信号が再びプローブの超音波探触子により受波されます.この受波された信号をRF信号(Radiofrequency Signal)と呼びます.

受波されたRF信号を図4に示します.RF信号の横軸は時間ですが,血管内の超音波の速度を掛けることにより距離に変換することができます.図4では横軸が距離に変換されており,それぞれの組織の境界で超音波が反射され,その部分のRF信号の値が大きいことがわかります.このRF信号の負値の部分を上に折り返し,その包絡線を取ります.その包絡線の値をプローブの位置(中心)から血管の外側へ向かう一本の線上にある画素の輝度値とします.このプローブが一回転すると図5に示すような血管の断面画像が得られます.この画像はBモード画像と呼ばれ,臨床医はこの明暗の画像を観て診断を行います.しかし,この画像からプラークの組織性状を正確に判別するのは非常に困難です.

 

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図3 プローブ

 

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図4 組織から反射したRF信号(Radiofrequency Signal)




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図5 RF信号から血管断面画像(Bモード画像)の構築
(図をクリックすると動画が表示されます)




3.プラークの組織性状判別

血管内超音波診断IVUS(Intravascular Ultrasound)は,プラークの組織性状の判別において非常に有効です.IVUSを用いた従来の組織性状判別法には,IB法(Integrated Backscatter Analysis)や,周波数スペクトルに基づいた判別法などがあります.これらの方法では,組織から反射してきたRF信号を用いて組織の性状を判別しますが,判別すべき組織の特性は互いに類似しているので,IB値(信号のエネルギー)や周波数スペクトルのみを用いたこれらの手法では精度に限界があります.

そこで,RF信号の周波数スペクトルの情報だけでなく,RF信号が反射された位置も判別の新たな情報とし,またソフトコンピューティングの学習能力とクラスタリングでよく用いられるk近隣法(k-Nearest Neighbor Method: kNN Method)を組み合わせて組織性状の判別を行います.図6に概略を示しますが詳しい分類アルゴリズムについては文末の関連文献を参照してください.

 

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図6 データ観測空間と特徴ベクトル空間の2つの情報を用いたクラス分類




4.組織性状判別結果

図7に組織の判別結果の一例を示します.従来のIB法による判別より,ソフトコンピューティングの学習に基づいた判別の方が医師の所見(染色した組織を顕微鏡を用いて医師が診断したもの)に近いことが多くの症例で実証されています.図7(a)において,ソフトコンピューティングを用いた提案手法は,関心領域を正確にLipid(脂質性組織)と判別しているのに対し,IB法は一部Fibrous(線維性組織)と誤判別しています.図7(b)においても,提案手法は関心領域の組織性状をほぼ正確に判別しています.しかし,この場合でもIB法は,組織の順番が逆転した大きな誤判別を起こします(紙面の都合により結果省略).

さらに,この組織判別の各断面画像を順番に重ねることにより,図8および図9に示すようなプラークの3D表示を得ることもできます.

 

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(a)




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(b)

図7 組織性状判別結果の例




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図8 血管内プラークの2Dおよび3D表示




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図9 血管内プラークの3D表示(イメージ)
(図をクリックすると動画が表示されます)




研究組織:
大学院理工学研究科 内野英治,末竹規哲,久保田良輔(博士研究員)
大学院医学系研究科 松崎益徳,廣高史


関連文献:
E. Uchino, N. Suetake, R. Kubota, G. Hashimoto, T. Hiro and M. Matsuzaki,“Advanced LVQ with Use of Neighborhood Information on Data Observation Points and Its Application to Intravascular Ultrasound Data,” Proc. of the Joint 3rd Int. Conf. on Soft Computing and Intelligent Systems and 7th International Symposium on Advanced Intelligent Systems, TH-E4-5, pp.593-597 (2006).

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