生物・化学科 助教 岩楯好昭先生

 

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岩楯先生、実験機器が並ぶ研究室で。右手はアメーバの運動を真似しています。

 

生物の「生き物らしさ」とは

インタービューアー(以下、イ)「理学部の素顔」記念すべき第1回のインタビューは生物・化学科助教の岩楯好昭先生です。岩楯先生、よろしくお願いします。

岩楯先生(以下、岩)よろしくお願いします。

岩楯先生はJSTの「さきがけ研究者」として研究を行われていますが、これはまさに最先端の研究を行っていることが評価されたのだと思います。
さきがけの事は後ほどうかがうことにして、まずは岩楯先生のご研究の内容からお話いただこうと思います。ホームページで公開されている「細胞運動システムの研究」とは、どのような研究でしょうか。

そうですね、端的に言えば生き物と生き物でないものとの違いは何か、ということに迫りたいと考えてい るんです。例えば生物には、単純なものから複雑なものを作り出すという、不思議な性質がありますよね。ちょっと考えると、熱力学の法則に逆らうようなこと がよくあるんです。このような事にこそ、生き物とは何か、という問題に迫るポイントがあるに違いありませんから、これをぜひ研究しよう、というわけです。

単純なものから複雑なものを作り出すところに生物らしさがある、というのが面白いですね。

例えばヒトは、最初は精子と卵子なわけですが、これが時間発展して複雑なヒトになるでしょう。あるい は動物の体の模様は、空間的に複雑さが発展してできるわけです。生き物にはよくサーカディアン・リズム(概日周期)というほぼ1日周期の時間変動がありま すが、これも時間発展する複雑さです。
こういった複雑さをシステムとしてとらえるわけです。そしてこれらを作り出すところにこそ、生物特有のしくみがあるだろうと考えているんです。

いわゆる、DNAに全部プログラムされている、という考え方とはずいぶん違いますね。

そう、もしDNAに書かれていることだけで生物が全部理解できるというのなら、原理的なことは全部わかってしまったわけだから、あとはそれをどう応用するか、ということになってしまいます。でもそれは本当でしょうか?
例えば魚の模様のように、空間的に現れた個性がある。これはDNAに書かれていないことです。このような生物特有の複雑さ、つまり生物のシステムを理解しないと、本当に生き物を理解したことにならないのです。

生き物とは何か、というまさに生物学の核心の問題ですね。その核心に迫る上で、岩楯先生が特に注目されていることについて教えてください。

そうですね、着目しているのはアメーバ運動です。アメーバが這い回る運動にはちゃんとしたリズムが見 られるんですよ。生物のリズム、例えばサーカディアン・リズムもそうですが、外部からリズムを乱されても、自分でそれを補正して、ちゃんとしたリズムを保 とうとします。自分で作り出す秩序があるわけです。
で、細胞の運動に見られるこのリズムのしくみが、実に面白いんです。例えば、ばねにおもりをぶら下げると振動するけど、だんだん減衰して止まってしまう でしょう。生き物のリズムって、ばねのような単純な振動とはぜんぜん違うんです。エネルギーが流れている開放系で生じている振動なんですよ。これこそ生き 物の面白いメカニズムだ!と思うんです。

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実験装置を作る工具と並んで。必要なら実験装置は自分で作る、です。

 

アメーバの動きを方程式にできるか?

岩楯先生のお話をうかがうと、古典的な生物学のアプローチとずいぶん違うように感じられますね。これは先生のこれまでの研究手法に関係があるのでしょうか。

おそらくそうだと思います。私は学生時代は応用物理学科というところに在籍していたのです。そこで生物物理を専攻しまして、今ではすっかり生物の研究者ということになっています。

生物物理学とはまさに学際的な分野ですね。

そうですね、まあ最近は研究者も多くてそれほど珍しくもありませんよ。生物物理学は、例えば筋肉の動作などを物理的な手法で研究するなどから始まっています。今では研究対象も様々なものがあります。

では再び、岩楯先生のご研究のことを伺います。今、行っている研究について、具体的に教えてください。

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「ヒョコヒョコ動く装置」。アメーバの運動を調べるための、岩楯先生お手製の実験装置です。
こんな簡単な仕掛けなのに、面白いように動きます。

 

中心的な課題は、アメーバの伸張収縮がいかにしておきるのか、そしていかにしてアメーバが這い回る運動をするのか、という問題です。

アメーバの運動ですか。

そう。アメーバが這い回るのは、例えば外部から誘引物質がやってきてそれに反応するような運動もありますが、外部の刺激が無くても自ら秩序を作り出して運動を行っているんです。運動の極性(どちらに進むかといった方向)を自分で作り出しているんですよね。

どちらにどう動くのか、それがどうやって決まっているか、ということですか?

そうなんです。アメーバは地面(硬い物体)に接触して、その上をはうように運動するのですが、地面に接触したときの反作用が、細胞のバランスや運動方向の極性を決めているのではないかと考えています。
(ここでアメーバが動き回る動画を見せてくれました)

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アメーバ。動画でお見せできると本当に面白いのですが・・・。

 

アメーバの動きにはあるリズムがあるでしょう。全体のバランスを保ちながら、いかにしてこのようなリズムを持った運動ができるのが、それを理解したいんです。

いやー、こうやって見ていると、面白いものですね。そもそも、どうやって動くのか・・・

このような生物の動きは、もとは細胞を構成するミクロな分子の反応や運動によるもののはずですが、細 胞の運動は分子に比べればずっと大きなスケールの現象です。スケールがぜんぜん違う現象がどのように関連しているのか、そこが面白くて、まだ良くわかって いないところなのです。
できれば、アメーバの運動を方程式として表して、シミュレーションを行って、実際の動きと比べてみるところまでやってみたいと思っています。

方程式ですか!それはかなり大変そうですね。

研究分野が近い松野(浩嗣)先生には「方程式は無理なんじゃないの」といわれました(笑)。でも数理モデルを作ってシミュレーションするところまではぜひやってみたいし、それが生き物の理解には必要だと思っています。
でも、こういう研究を行うためには、数理物理モデルやシミュレーションだけやっていても、やはり生き物の実態をとらえられません。やはり生物学の研究方法、培養や観察なども必要です。私としては、物理と生物の両方の方法を使って研究をやろうとしているんです。

岩楯先生ならまさに適任ですね。

よい先生との出会い

斬新な手法で生き物の仕組みに迫る岩楯先生、どのような先生に師事されたのですか。

すでにお話しましたように、私は早稲田大学の応用物理学科を卒業しまして、そのまま大学院に進学したのですが、この頃に師と呼べる先生に3人出会いました。1人は早稲田の浅井先生ですが、あと2人は早稲田の先生ではないんです。

といいますと?

その2人とは、現在、産総研の加藤薫先生、そして新潟大学の菊山宗弘先生 です。当時、菊山先生は放送大学の先生で、放送大学本部がある千葉のキャンパ スに研究室を持っていました。加藤先生は当時そこに居候のような形で出入りさ れていたんです。
最初、菊山先生の研究室で菊山先生と加藤先生がやっている研究手法を学ぼう ということで、研究室にいさせてもらうことにしたのです。そしたらこれが面白 くて、結局ずっとそこで研究することになりました。でも放送大学に在籍したわ けではないので、制度上は菊山先生に指導していただいたわけではなく、形式と しては何の関係も無いんです。

研究の面白さに魅かれて、そこまでやってしまうとはすごいですね。

早稲田大学の博士(後期)課程の2,3年の時には浅井先生のおかげで早稲田で助手に採用してもらえまして、経済的にはずいぶん助かりましたね。早稲田と放送大学のかけもちでした。

そりゃ、早稲田も太っ腹ですね(笑)。

はい、早稲田の浅井先生が規格外の度量広い方で、僕のわがままを認めてくれて、当時はありがたみがよく分からなかったのですが、今はすごく感謝してい ます。

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実験用の回路を見ながら。岩楯先生がいろいろな技をお持ちなのは、経歴がユニークだから?

 

ほめる、しかしきかれるまで教えない

ところで、大学の先生をという立場になると、教育についてもいろいろと考えなければなりません。岩楯先生は教育について何かポリシーのようなものをお持ちですか。

ええ、これはもうはっきりしているんですけど、ひとつは「おこらない、ほめる」こと、もうひとつは「きかれるまで教えない」ということです。

今の時代に、その方針を持ち続けられるのは素晴らしいですね。これは誰かの影響があったのでしょうか?

はい、やはり加藤先生と菊山先生の影響ですね。まさにそういう教育を受けて、私にはそれがとても良かったのです。研究面でも教育でも、この人はすごい、この人なら信用できると思って、いろいろな面で影響を受けていると思います。

「さきがけ研究員」として

最後になりましたが、岩楯先生は現在「さきがけ研究員」として研究をされています。これについてお伺いします。まず「さきがけ」とは何でしょうか。

「さきがけ」はJST(科学技術振興機構)が行っている研究支援事業の一つです。これは科研費(科学 研究費補助金)のようなボトムアップ型の公募研究とは異なり、国家的な視点で重点とされた「研究領域」に応募するという、いわばトップダウン方式の研究支 援です。私の場合は「生命システムの動作原理と基盤技術」という研究領域です。
この研究領域で独創的な研究を行いたい人はいますか、という公募が出ますので、それに応募して採択され、さきがけの研究員になった、というわけです。2008年10月に採用になりまして、期間は3年半です。

さきがけ研究員とは全国で何人くらいいるのですか。

この研究領域で、毎年13人程度です。それが3年間続きますので、全国で40人程度ですね。

全国で40人の中の1人ですから、岩楯先生の研究は高く評価されているということですね。

ははは、ありがとうございます。

3年半の間に、研究はどのあたりまで進めたいとお考えですか。

そうですね・・・運動の様子を調べ、そのメカニズムを理解するのは、かなりいいところまでいくと思います。本当はシミュレーションまで行きたいのですが、それはちょっと難しいかな。

楽しみですね。
さて、予定時間となりました。今日は長時間のインタビューにお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

ありがとうございました。

あと少し、写真を撮らせていただけますか。

いいですよ。何がいいかな・・・。
(ここで研究室の学生さんから「あのヒョコヒョコ動くのがいいですよ!」と声がかかりました。学生さんの人望を集めているのですね。)

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研究に対する熱意だけでなく、見た目も若々しい岩楯先生。

 

岩楯好昭 いわだて よしあき (理学部生物分野へ
1970年 東京生まれ
2004年 山口大学に助手として着任
2007年 職名変更により助教、現在に至る

岩楯先生より 目を広い外と上に向けること。そうして、まじめにやっていれば、 誰か自分を見ていてくれて、いつか良いことがある。そういう人と の出会いを大切にすること。そんなことを気をつけています。

インタビュー:2009年5月21日(月)10:30-11:30、インタビューアー:藤沢健太
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