生物・化学科 教授 岩尾康宏先生

 

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岩尾先生。落ち着いた雰囲気の研究室で。


インタビューアーより 今回は生物科学分野の岩尾先生、ご専門は発生生物学・分子細胞生物学です。発生というと、昔、カエルの卵の分裂する様子を勉強したことを思い出します。ア フリカツメガエルを使って研究をされているとのことで、そのカエルさんにも興味があります。ぜひ見せていただこう、ということで総合研究棟の研究室にお邪 魔しました。

生命が誕生するところ

インタービューアー(以下、イ)「理学部の素顔」第3回のインタビューは生物・化学科教授の岩尾康宏先生です。岩尾先生、よろしくお願いします。

岩尾先生(以下、岩)よろしくお願いします。

さっそく先生のご研究についてうかがいます。先生のご専門である「発生生物学」とはどのような研究をする学問でしょうか。

簡単に言えば、「生命が誕生するところ」の研究ですね。例えば卵と精子の合体によって受精卵ができま す。これは最初は丸い一つ細胞のですが、細胞分裂(卵割)が始まり、多くの細胞ができます。そして、その後複雑な構造となって、やがて体を作っていきます ね。人間なら60兆個もの細胞から大きな大脳ができ、意識をもつまでになりますね。単純な受精卵からこのような複雑な体がどのようにして生じるのか、そこ を明らかにしたいと思っているのです。

生命の誕生は、ある意味で生物の最も重要な現象、といえそうですね。

ええ、そうだと思います。
私が発生生物学の研究に入り込むことになったのも、生命の誕生のことがきっかけになっているんです。学生だった時、ダイナミックなカエルの卵割の様子を観察して、なんというか…ドキッとしたんですよね。おおっ、これはすごい!面白い!!と感じたんです。

ドキッとした、そしてのめりこんだ、というのが素敵ですね。

実際、そう思いましたね。この印象をぜひ学生の皆さんにも味わってもらいたいと思っています。今では様々な現象や場面をきれいな映像にすることもできますから、講義でも紹介しているのですよ。見てみますか?

ぜひ!

(ここで卵割の様子をムービーで見せていただきました。ダイナミックな卵割、同調した細胞分裂、そして3日間ほどでオタマジャクシの形が形成されていく様子は、息をするのを忘れるほど面白いのです。岩尾先生がのめりこんだ理由がわかります)

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卵割、そして生物としての形ができていく様子。生き物の不思議さと面白さを実感します。

 

あー、これは本当に面白いですね。いったいどうして細胞があのような動きをするのか…。

そうなんです。特にこのようなことを研究するためには、生きた細胞を連続して観察する技術も必要で、そのような研究もやっています。
で、この細胞の動きは、もちろん細胞の中の分子によって起きているのですが、細胞に含まれる様々な分子がどのような働きをし、そのように動いているのか、まだよくわかっていないのです。ぜひこれを解明したいと考えています。

細胞の中身を理解するということですか。

そうですね。生物の生物らしさを分子レベルで解明したい、と言えば良いでしょうか。
細胞の中には様々な物質が存在することがわかっています。DNAに遺伝情報が書かれていて、それに基づいて様々な素材から細胞の部品が作られていること も、だんだんとわかってきました。でも、そのような素材や部品が、卵割や体づくりなどでどのように使われているかは、まだまだ未解明です。ここを明らかに することで、生命がいかに誕生するのか、ということを理解できるようになると期待しています。

なるほど、それで最初におっしゃられた生命がいかに誕生するのか、という問題に結びついていくのですね。

でもこれは簡単だとは思っていません。というより、本当にすべてを理解できるのだろうか? 少なくとも、私が生きているうちに全部理解するのは、絶対に無理でしょうね(笑)。

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細胞の電位を測定する装置と並んで。「実験のためには物理や化学など、いろいろなことを使うのですよ」。

 

幸運の女神は努力した人に微笑む

このような分子発生生物学の研究は、比較的新しい分野ですから、日々、小さなことでも新しいことが見つかりますし、やることもたくさんあります。

学生さんにもチャンスがたくさんある、ということですね。

そう、チャレンジすべき課題がとてもたくさんあります。それに努力しただけ結果が得られるんですよね。努力が報われるのですから、学生さんには大いに手を動かして、発見する喜びを味わってほしいですね。頭は、まあ、あまり使わなくても・・・ははは。

いやいや、そんなことはないと思いますが・・・(笑)。

まあ頭は時々はしっかりと使うわけですが、とにかく体を使って努力した分だけ、良い結果が得られるというのは本当ですよ。
よく『幸運の女神は努力した人に微笑む』といいますよね。それに、この分野は未知の素材がいっぱいありますから、がんばって探していると素晴らしい宝石を見つけられる、まさにそんな感じです。

 

『人間とは何か』を生物に学ぶ

岩尾先生のお話を伺うと、生物に対する謙虚な態度が感じられます。

そうですね。生物は30億年もかけて進化してきています。私たちのような脊椎生物でも数億年間も進化 してきているのですよ。その長い時間の間に、非常に多くの試行錯誤をして、無数のパターンを作り、その中から生命にとって有用なものを拾い出して使ってい るわけです。それによって、興味深い素材がまさに無数に生物に秘められているといえますよね。それを見つけ出し、理解したい、というのが生物学の一つの動 機だと思います。

生物から学ぶ、ということですね。

そう、まさに生物から学ぶのです。そしてこの問いは、究極的には『生命とは何か』、そして『人間とは何か』、という問題にもつながります。これこそ科学の一つの目的でしょう。

 

新しい技術で生命を見る

岩尾先生は、研究者としてたどってこられた道を振り返ってみて、どの様に感じられますか。

なんといっても、楽しい(過去形ではない)ですね。新しいことも発見もできましたし。
それから、最近は生物学の様々な分野がとても発展していることに改めて驚きます。特にこの10~20年の発展はすごいですね。私がこの道に進んだ頃には思いもよらなかったような、素晴らしい進歩があると思います。

技術的な発展が大きく関与しているのでしょうか。

そうですね。コンピュータなど情報技術に代表される、様々な技術革新が、生物学の研究にも多大な発展 をもたらしているのは間違いありません。例えばDNAの遺伝子配列を解読したりするのに、人の手でやっていたのではとても間に合いません。情報技術が発展 したからこそ、現代の生物学の発展があるといって良いと思います。
それにしても、ともすれば博物学的だった生物学がこんなに発展するとは・・・先見の明がなかったので(?)この分野に進みましが、科学の進歩は本当に面白いものです。
それから、微量の物質を測定する技術、様々な現象を可視化する技術なども重要です。こんなのもありますよ(といって、またムービーを見せてくださいました)。

 

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受精によってカルシウム波が伝播する様子。

 

これは受精の瞬間の様子です。この右上のところに精子が進入すると、そこからカルシウムのイオン(Ca2+)の波が広がって、卵子を覆っていくのがわかるでしょう。

おーっ、これもすごいですね!

見事なものでしょう。これによって複数の精子の進入を防ぎます。そしてこの受精でいわば卵が目覚め て、生命としての誕生が始まるわけです。こういうのも、微量な物質の測定や可視化ができるようになって、こんなムービーとして示せるようになったのです。 これはアフリカツメガエルの受精の様子ですが、この基本的なしくみは進化の過程でよく保存されていて、私たちヒトを含めてほとんどの生物で共通なのです。 だから、この発生の様子を研究することで、普遍的な生物の発生の研究に役立てられる、と考えているんです。

 

アフリカツメガエル

ところで、岩尾先生がご研究の材料とされている「アフリカツメガエル」についてお聞かせください。なぜアフリカツメガエルを材料とされているのでしょうか。

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アフリカツメガエルの子供。アマガエルくらいの大きさです。
これは2歳くらいだそうですが、寿命はとても長く、20年ぐらいはあるそうです。

 

それはいくつか理由があります。
1つは、1年中、卵を産むということです。3ヶ月に1回は卵を産ませることができるのです。普通のカエルだと1年に1回、ちょうど今頃の時期に産卵するだけですから、これだと研究が1年に1回分しかできませんよね。
また、人工的に飼育しやすいのも重要です。魚を飼うのに使う餌を食べてくれるので、便利ですね。これまた普通のカエルだと、生きたコオロギなどを与えな いといけません。よその研究室では、カエルのためにコオロギを飼育する「コオロギ部屋」があったりしますが、それは大変でしょう。
それに卵が大きくて観察や実験が容易、含まれている分子の量も多いので生化学的にも有利、などなどいろいろといいことがあります。というわけで、世界中で使われているモデル生物の1つになっているのですよ。

なるほど。逆に大変なことや困ることはありますか?

困るというほどではありませんが、割と温度変化に弱いんです。アフリカ産なのに、暑いと死んでしまうし、寒くてもだめ。もともとあまり温度変化のない、アフリカでも涼しいところに生息しているのですね。

 

(飼育室でスーツの袖をさっとまくって、2匹を拾い出してくれました。さすが生物の先生です。)

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これがアフリカツメガエル、結構大きい(10cmくらい?)です。
カエルなのに後ろ足には爪があります。なるほどアフリカ「爪蛙」ですね。

 

もともとおとなしい生き物ですよ。噛み付いたりしませんしね。カエルって舌を伸ばして昆虫を捕まえて 食べるでしょう。噛み付くような歯がないのですよ。特にアフリカツメガエルは、生まれてからずっと水の中にいますし(これも飼い易い理由の一つですね)、 舌がないので口をあけて水の中の生き物を掻き込んで食べているんです。

いやー、初めて見ました。結構大きいですね。

 

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これはイモリ、やはり研究用です。これだけいるとすごいですね。

 

かつて理科少年

岩尾先生の話を伺っていると、カエルは単なる材料とは思えません。端的に言って、カエルは好き…でしょうか?

ははは、そうですね、大好きですね。よく学生にも「先生はカエル好きですね。」と言われます。

やっぱり。

カエルっておだやかな生き物ですし、噛み付いたりしませんし。でも生き物は何でも平気というわけでもありませんよ。ヘビはちょっと苦手です。

生物の先生でもそういうことがあるんですね(笑)。子供の頃から生き物に興味があったのでしょうか。

ありましたね。私は北海道の出身で、身近に昆虫や生き物がたくさんいたのです。子供のときは昆虫採集に行って、虫かごいっぱい蝶々やトンボを持ち帰ったりしていました。
でも生き物だけでなく、理科全般に興味があったと思います。高校時代に、ウイルソンの霧箱(放射線の検出装置)や光電管の実験をやった事や、有機合成の実験をしたことを良く覚えています。
植物も好きですよ。最近はグリーンカーテンを作ったりして、自分の家でいろんな植物を育てています。特に実がなって食べられるのがいいですね。ゴーヤと か、キュウリとか。たくさん収穫した時は山中さん(向かいの研究室にいる山中明先生)におすそ分けしたりしています(笑)。

 

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岩尾研究室にはあちこちに「カエルグッズ」があります。これは「カエル暖簾」?

 

先生として、大学職員として

岩尾先生のホームページを拝見すると、学生さんともども、いろんなイベントをなされているようですね。

そうですね、学生が率先して色々やってくれるのですよ。花見とか、バーベキューとか。

それは良い雰囲気ですね。

そうですね。それから、潮干狩りや筍掘りに行ったこともあります。ちょっと面白いことに、なんとなく「採集熱」のようなものがあるんですよ。ほら、潮干狩りも、筍も、自然で採集して持ち帰るでしょう。

ははあ、さすがは生物の研究室ですね。これは理科少年少女の血が騒ぐということですね(笑)。
では最後になりましたが、今年度からご担当の広報委員長として、抱負をお聞かせください。

そうですね、理学部ではサイエンスミニカレッジやサイエンスワールドなど、いろんなイベントや広報活動をやっています。これを多くの人に知ってもらい、発展させていきたいと思っています。

お忙しいことともいますが、ぜひ科学の面白さを多くの方にお伝えください。ご活躍を期待しています。
さて、予定時間となりました。今日は長時間のインタビューにお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

ありがとうございました。

 

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扉に貼ったカエルのカレンダーとカエルの磁石と一緒に。
とても穏やかな語り口調で、学者然とした岩尾先生です。

 

岩尾康宏 いわお やすひろ (岩尾研究室HPへ
1955年 北海道生まれ
1981年 山口大学に着任
1995年 教授、現在に至る

岩尾先生より 天空のつばめとなって、地上の星(進化の宝石)を一緒に探してみませんか?

インタビュー:2009年6月10日(水)13:30-14:30、インタビューアー:藤沢健太
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