生物・化学科 教授 川俣純先生

 

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川俣先生。学生さんと共にパルスレーザー装置を操作する。


インタビューアーより 今回は化学分野の川俣先生、ご専門は固体物性化学です。面白い物質を合成し、その性質をレーザーを使って調べる、とのこと。2光子吸収とは?化学オーケストラとは?いろいろとお聞きしたいことを抱えて、実験室にお邪魔しました。

有機物と光の相互作用

インタービューアー(以下、イ)「理学部の素顔」第4回のインタビューは生物・化学科(化学分野)教授の川俣純先生です。川俣先生、よろしくお願いします。今回は実験装置を見せていただくところから始めました。

川俣先生(以下、川)はい、よろしくお願いします。

じゃ、さっそく。これが我々の主力の実験装置のパルスレーザです。取り出せるレーザー光の波長は300nmから3000nm程度、フェムト秒(10-15秒)という短時間だけ発光する機能を持つのです。これだけ高機能のレーザーは、中国地方にはここにしかありません。広島や熊本からこの装置を利用しに来る人もいます。

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パルスレーザー装置をうまく扱うにはどうすればよいか?

 

それはすごい装置ですね。これでどのような実験を行われるのですか。

簡単に言えば、『有機物と光の相互作用』ということになります。物質はいろいろな場面で光と相互作用をします。相互作用というと難しいですが、光を吸収したり放出したりすることですね。

光ったりする化学反応ということでしょうか?

それもありますが、他にもいろいろありますよ。私の研究室でやっていることの一つが、「2光子吸収」 です。光はエネルギーを持った粒子、つまり光子で、普通の化学反応では1つの反応で光子が1つ放出されたり吸収されたりします。ところが強いレーザー光を 当てると、2つの光子を同時に吸収するような現象が起きることがあるのです。これが2光子吸収。

光が強いときに、そういう反応が起きるのですね。

そう、光が強いときだけ反応するというのが大切なんですよ。広がったレーザー光線を当てているだけだと何も反応が起きないけれど、レンズで光線を収束させて1点に集めると、その焦点だけで、2光子吸収の反応を起こすことができるのです。

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2光子吸収の様子。左から入ってきた光がレンズで集光されて中央に焦点を結びます。
ここで2光子吸収、そして蛍光が起きて光って見えています。

 

他のところにも光が当たっているのに、焦点のところだけ反応が起きるというのが面白いですね。

そうでしょう。これを使って透明な物質の中で焦点を結ぶようにレンズを工夫すると、物質の中の1点だ け反応が起きる。物質の中に化学反応で模様を描いたりすることができるんです。で、「模様を描く」というのを「情報を書き込む」と言い換えると、これは3 次元メモリという、画期的な記憶媒体を作ることができる可能性を示しているんです。

3次元メモリとは??

CDなどは、円盤の平面上に模様として情報が書き込まれているのです。つまり2次元ですよね。CDの厚さ方向、つまり表面だけでなくて奥のほうまで何層にも情報を重ねて書けたら、ものすごい量の情報を同じサイズの円盤に書けますよね。これが3次元メモリ。

なるほど! それは画期的な記録装置になりそうですね。今、どのへんまでできているんでしょうか?

まだいろいろ研究しなければいけないことがありますね。例えばレーザー光線のパワーを大きくすることとか。重要なのが2光子吸収が効率的に起きる物質の研究です。実はこれを、もう10年もやっているんです。

そこが川俣先生の研究というわけですね。

以前は大型のレーザー装置でなければうまくいかなかったのですが、3年ほど前に数100ミリワットの 半導体レーザーでも実験に成功しました。DVD-Rへの記録ならうまくいきそうです。今は、短い波長のレーザーでうまくいくかどうか、研究しています。な かなか難しいのですが。

他には2光子吸収の応用がありますか?

いろいろありますよ。昨年(2008年)に下村先生がノーベル化学賞を受賞されて、GFP(緑色蛍光タンパク質)が急に有名になりましたよね。細胞内に光る物質を作り出すと、細胞の中のいろいろな現象が「見え」て、とても便利なのです。

いろんな生物実験で使われているそうですね。

そうなんです。ところが、GFPはかなり大きな分子(分子量がおよそ30000もある)なので、細胞 の中にある小さな分子のことを調べるのには、ちょっと使いにくいのです。もっと小さくてGFPと同じような機能のある分子ができると便利だ・・・というわ けで、2光子吸収して発光する物質(蛍光性2光子吸収物質)で使えるものを作りたいと思っているんです。細胞の中で使いますから水に良く溶けて、そして良 く光って目印になりやすいものがいいですね。

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今まさに研究中の有機物質。きれいな色ですね。光と反応する物質の実験は、見ているだけでも楽しそうです。

 

偶然に導かれた研究の道

どうして有機物と光を使った研究の道に入られたのですか。

学生のときに所属していたのが有機物質の性質(物性)の研究室だったんです。それで最初は、液晶の研究…というより液晶になりそうな有機物の研究をやっていました。

なるほど。光をあつかうようになったのは?

それは大学院生の修士(博士前期)課程のときです。いろんな偶然が積み重なっているんです。ちょっと話が長くなりますよ。

お願いします。

私が所属していたのは、「有機固体の導電性」を世界で初めて発見した松永義夫先生の研究室です。松永先生がこれを発見したのは修士課程2年のときだったそうです。

学生のときにそんな大発見をされた先生なのですね。

そうなんですよ。私も松永先生にいろいろと良い影響を受けました。研究の試料を自分で作成して、自分で測定する、と両方を自分でやるようにしているのも、その影響です。両方やっている人って意外と少ないんですよ。

で、松永先生が伝導性を発見したということで、研究室の先輩たちは松永先生の研究を引きついで伝導性の専門家なわけで す。先輩たちのそうそうたる顔ぶれを見ると、私なんかとてもこれはかなわない、同じことをやってもとても勝てないから、よし、じゃあほかのことをやろう! と思ったわけです。

それで電気ではなく光を・・・

そう。身の周りに、有機物に光を当てる実験をしている人がいなかったので、これなら独創的だろう、と 思ったのです。そんな研究をやっている人が他にいなかったわけではないのだけど、当時は良く知らなかったし、それに「ともかくレーザー光線を当ててみたら 何だか面白そう」という感じの、気楽な考えでしたね。

何だか面白そう、というのがいいですね。

驚いたことに、こういう研究を始めてすぐ、物理の研究室で、ポリジアセチレンという物質を使って擬一 次元電子系の実験をやろうとしていて、そういう技術を持った助手を求めている、という話がやってきたのです。松永先生が、「これは君が適任だから」という ことで推薦してくださって、物理の助手になりました。だから私は修士課程を修了していないんです。

そうでしたか、それは面白い経歴ですね。

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実験試料。きれいな赤色です。これが光るのかな?

 

助手時代から本格的にレーザーを使った非線形光学効果の研究をやっていました。

これを始めるときにも偶然がありました。GaAs(ガリウム・ヒ素化合物)を使った非線形光学効果で、赤い光を青に変換 するのはかなり難しいと言われていた時代です。これはもともと自分の研究と直接関係しなかったことなのですが、ちょっといたずらで作ってみた結晶を使って 実験してみると、とても良い非線形効果をもっていることが分かったのです。これは面白い、ということで非線形光学の研究を本格的に始めました。

いたずらで作った結晶がいい性質を持っていた、というのがまた面白いですね。

まあそういう偶然に導かれて今に至っているというわけです。そんな経緯もあるので、研究のやり方は「面白そうな有機物質をデザインし、合成し、そして物性の測定まで一貫して自分でやる」です。

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学生さんが作った国際学会の発表資料に目を通す。真剣です。

 

学生には自分より優れているところが必ずある

実験の様子を写真に取らせてもらうとき、常に学生さんが一緒に写るようにされましたね。ここに川俣先生のポリシーを感じるのですが、いかがでしょうか。

そうですね・・・まあお祭り好きな性格なので、学生と一緒にやるのが楽しいのですよ。昔、松永先生にしていただいたことを、自分の学生にもしてあげたいとも思っていますしね。

学生に接するときにいつも思うのは、どんな学生でも自分より優れているところが必ずある、ということです。それをリスペ クト(敬意を払う)することが大切だと思うんです。自分は先生という立場ですが、先生だからといって全ての面において学生より優れているわけではありませ んからね。

あー、それは大切ですね。しかしなかなか難しいものですが・・・このインタビューの最中の様子から、学生さんが川俣先生に敬意を払っている様子がうかがわれました。先生と学生が互いに敬意を払うことができる関係とは、素晴らしいですね。

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実験室で、学生さんの作業に暖かい視線を送る川俣先生。

 

化学オーケストラ

話はすっかり変わりますが、川俣先生のホームページを見たら、『化学オーケストラ・バイオリン奏者』とありました。化学オーケストラとは?

見ましたか(笑)。化学オーケストラとは、日本化学会の学会員の有志メンバーで構成するオーケストラです。化学会の年会で、表彰式の後にコンサートを開くんです。これが定期演奏会。

そりゃすごいですね。学会がバックアップしているんですね。

そう、すごいでしょう。化学者には色々な人がいますからね。

で、私も以前から気になっていたのですが、なかなか忙しくて参加には踏み切れなかったのです。でも、このままじゃいつまでたっても参加できない、と思って3、4年前に、「意を決して」参加したんです。

それでバイオリン奏者になった・・・バイオリンは以前から演奏されていたのですか?

はい。子供の頃からずっとやっていまして、学生の頃は交響楽団にも所属していました。

素晴らしいですね。最近はどんな活動をされていますか?

東京で定期的に練習会があるので、2ヶ月に1回はそれに参加しようとしています。なかなか時間を作る のが難しいですが・・・。最近参加した演奏会は、昨年の11月にカザルスホールで開催された「千代田区文化芸術の秋・オーケストラフェスティバル」です。 他に、日本化学会春季年会での「スプリングコンサート」や、「コロイドおよび界面化学討論会」という日本化学会の部会の懇親会でも演奏をしています。。

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研究室にて。大きな鉢植えが置いてあります。

 

企画室長として

今年度から理学部の企画室長に着任されました。抱負をお聞かせください。

時代の変化に理学部が対応できるように努力したいですね。我々が住んでいるのは学問の世界ですが、それを取り巻く世界の変化はとても速いのです。この変化にちゃんと対応できるよう、理学部のあり方を考えていこうと思います。 好きな研究をこれからも続けられる、そういう研究環境を守るためにも、世の中で理学部ができること、を考え続けていこうと思っています。

理学部の未来のためにも、ご活躍を期待しています。
さて、予定時間となりました。今日は長時間のインタビューにお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

ありがとうございました。

 

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学生の人望も厚い川俣先生。
ようやく川俣先生らしい写真が取れました。

 

川俣 純 かわまた じゅん (川俣研究室HPへ
1963年 茨城生まれ
2003年 山口大学に着任
2009年 教授、現在に至る

川俣先生より 専門知識はもちろんですが、幅広い教養を身につけた人物でないと世の中で活躍できないと思っています。そのような人物を育成していきたいと心がけています。

インタビュー:2009年6月10日(水)10:30-11:30、インタビューアー:藤沢健太
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